2020年から続くApp Store訴訟が、ついに最高裁の門前へ。Epicが叩きつけた35ページの却下要求に対し、Appleはわずか12ページの応答書で切り返しました。短い反論文に込められたのは、「Epic自身の主張こそ、審理の必要性を裏付けている」という逆転のロジックです。手数料・外部決済・アプリ価格——開発者とユーザーの財布に直結するルールが、いま再び揺れています。
Appleの逆襲ロジック——「Epicは判決を書き換えようとしている」
Epic Gamesは2026年6月4日、35ページの反対意見書を提出し、Appleの上告棄却を最高裁に求めました。これに対するAppleの応答書は12ページ。Epicの主張する2つの中心論点に的を絞った、鋭い反撃です。
第一の争点はアンチステアリング(外部決済への誘導禁止)の差止命令の範囲。Appleは、当該命令が制限したのは特定のアンチステアリング行為のみであり、App Storeの手数料そのものには触れていないと主張しています。「Epicの主張は判決の正確な記述ではなく、ルールを書き換えようとする試みだ」というのがAppleの見解です。
これが認められれば、外部リンクに対する手数料設定の余地がAppleに残ることになり、開発者の外部決済導入インセンティブや、ユーザーが目にするアプリ内価格にも波及します。
第二の争点は2025年の最高裁判例「Trump v. CASA, Inc.」の解釈です。Epicは、Appleがこの判例の適用除外を不当に主張していると批判。これに対しAppleは、CASA判決自体が反トラスト訴訟には「適用されない(has no bearing)」と明示していると指摘し、Epicの議論は意味を成さないと反論しました。
27%手数料と「willful violation」——2020年から続く因縁
訴訟の発端は2020年。EpicがApp Storeの決済ルールに対して意図的に紛争を引き起こしたことに始まります。2021年の一審では、Appleが大半の論点で勝訴。しかしアンチステアリングについては敗訴し、Yvonne Gonzalez Rogers判事は外部決済手段へのリンクを開発者に許可するよう命じました。
ところがAppleは命令に従いつつ、外部リンク経由の取引に27%の手数料を課しました。結果、これを採用した開発者はごく少数。2025年4月、Gonzalez Rogers判事はAppleが意図的に差止命令に違反した(willful violation)と認定し、外部リンクへの一切の手数料徴収を禁じます。
判事の追及はさらに踏み込みます。Apple財務担当VPのAlex Roman氏の証言が、27%の手数料をいつ決定したかをめぐり「誤誘導と露骨な嘘に満ちている(replete with misdirection and outright lies)」と批判。同氏とAppleを、刑事的法廷侮辱罪の捜査対象として連邦検察に照会するという異例の措置に踏み切りました。
ここで27%の徴収が完全に封じられれば、外部決済の経済合理性が一気に増し、Spotify型の「サブスクは外で契約してね」モデルが他カテゴリにも広がる可能性があります。
「最終決戦」の幕開け——最高裁の受理判断は6月にも
その後Appleはリンク手数料を撤廃して控訴。2025年12月にはNinth Circuit(第9巡回区控訴裁判所)が、Appleの差止命令違反を認めつつも、合理的な手数料率の決定のため地裁に差し戻しました。
Appleは5月にSupreme Courtへ上告し、法廷侮辱認定の妥当性と、差止命令の効力をEpicだけでなく全米の開発者に及ぼすべきかを問うています。手数料関連手続きの一時停止を求めるAppleの動きは、Epicの異議申し立てで覆されました。
同じく5月、FortniteがApp Storeに世界的に復帰。Epic CEOのTim Sweeney氏は、紛争の「最終決戦(final battle)」が始まったと宣言しました。
最高裁は早ければ6月にもAppleの上告受理を判断する可能性があるとされますが、最終判決までには依然として数カ月を要する見通しです。現時点で確実なのは、「最高裁が審理に踏み込むかどうか」を6月の判断で見極める段階にあるということ。受理されれば、App Store経済圏の根幹ルールが米最高裁の手で書き換えられる可能性が現実味を帯びます。
外部決済リンクの開発者採用状況——Spotifyが切り開いた道筋
米国App Storeで外部決済リンクを最初に実装したアプリは、音楽配信のSpotifyです。2025年5月、Appleが同社のiOSアプリ更新を承認し、ユーザーはApp内決済を経由せずサブスクリプションを契約できるようになりました。
ただし、これに続く動きは限定的です。
採用が進みやすいとされる開発者の特徴
- 既存のWeb課金インフラを保有している
- ブランド認知が高く、外部サイトでの決済に抵抗感が少ない
- 「リーダー」アプリのカテゴリーに該当し、外部決済のみの運用が認められる
業界アナリストは、Match Group、Spotify、Netflixといった大手が最も恩恵を受けやすいと指摘しています。一方で、小規模デベロッパーは外部決済導入の技術的・運用的コストを負担しにくく、App Store内決済を継続するケースが目立つとされます。リンク手数料の有無が確定するまで、本格採用を見送る姿勢も広がっているようです。
Apple自身の調査が示した「価格は下がらない」現実
外部決済の解放が消費者に直接の値下げをもたらしたかについて、Apple自身が2025年11月に公表した分析が議論を呼んでいます。
代替条件に切り替えた開発者の90%超が、手数料節約分を消費者に還元していない——価格は据え置きか、むしろ上昇している。
この数字はAppleが最高裁への上告で「差止命令はユーザー利益を保護していない」と主張する有力な材料になっています。上告の2大論点である「法廷侮辱認定の妥当性」と「差止命令の射程」のうち、特に後者の射程拡大に対する反論として、Appleは「全米の開発者に同一の命令を及ぼしても、価格メリットが利用者に届く保証はない」という経済的反証を組み立てているとみられます。
開発者側の利益と消費者の便益が一致しない可能性が浮上したことで、最高裁が審理に踏み込む場合、反トラスト法上の「消費者厚生基準」をどう適用するかが新たな争点になり得ます。
Q&A
Q. Fortniteは今後どうなりますか? Fortniteは5月にApp Storeへ世界的に復帰済みで、現状そのまま提供が続いています。Sweeney氏が「最終決戦」と表現したのは、ストア復帰後も続く手数料・外部決済ルールをめぐる法廷闘争のことです。
Q. 最高裁が上告を受理するかはいつ分かりますか? 早ければ6月にも受理判断が示される可能性があると伝えられています。仮に受理されても、最終判決まではさらに数カ月を要する見込みです。
Q. Appleの応答書のポイントは何ですか? ①アンチステアリング差止命令の範囲をEpicが拡大解釈していること、②2025年の「Trump v. CASA」判例が反トラスト訴訟には適用されないこと——この2点を軸に、Epicの主張を「判決の書き換え」と切り捨てる構成です。
Q. 今回の応答書はどの主張に的を絞っていますか? Appleの応答書は、Epicが提出した35ページの反対意見書のうち、アンチステアリング差止命令の範囲と「Trump v. CASA」判例の適用可否という2つの中心論点に焦点を当てています。Appleはこの2点を突き崩すことで、最高裁による審理の必要性を改めて訴える構成を取っています。