GadgetDrop
スマートフォン注目

Ferrari LuceにSamsung製OLEDを4サイズ搭載——HIAA技術と二層スタック構造で物理針が貫通する計器盤を実現

GadgetDrop 編集部8
Ferrari LuceにSamsung製OLEDを4サイズ搭載——HIAA技術と二層スタック構造で物理針が貫通する計器盤を実現

€550,000(約9,400万円)の超高級車に、スマホのパンチホール技術が約20倍スケールで搭載される——。 Sir Jony Ive氏(Apple退社後に設立したLoveFromの代表)が内外装をデザインしたFerrari Luceの車内に、Samsung Display製のOLEDが4サイズ・計3つの表示ゾーンで搭載されることが明らかになりました。計器盤には物理針がディスプレイを貫通する二層スタック構造が採用され、平面ガラスの2D表示ではなく三次元的な表示(three dimensional display)が実現されるとされています。GSMArenaが報じています。

Samsung製OLEDを4サイズで3ゾーンに展開

Ferrari Luceの車内に組み込まれるディスプレイは、Samsung Displayが供給する次の4種類のパネル(12.9インチ・12インチ・10.1インチ・6.3インチ)です。

配置パネルサイズ役割
計器盤(下層)12インチゲージの目盛りなど背景表示
計器盤(上層)12.9インチ3つの円形カットアウト付き、物理針が貫通
中央コンソール10.1インチ時計・ストップウォッチ・コンパス等を切替表示
後席用6.3インチ後席乗員向けの空調・走行情報表示

「3つの表示ゾーン」と「4種のパネルサイズ」という構成は、運転席前のメーター、センターコンソール、後席という車内3区画それぞれに、専用のOLEDをあてがう設計思想を表しています。Ive氏が車両の内外装を一貫してデザインしたとされており、ハードウェアとソフトウェアをシームレスに統合するという思想は、彼がAppleで磨いてきた「素材・物理ディテール・UIの一体化」というアプローチと地続きに読み取れる、との見方もあります。

二層スタック+HIAAで「奥行きのある」計器盤を実現

最も特徴的なのは、運転席前の計器盤(binnacle)です。ここには下層に12インチ、上層に12.9インチのOLEDを重ねる「二層スタック構造」が採用されます。下層パネルがゲージの目盛りなど背景情報を描画し、上層パネルにはSamsungのHIAA技術(Hole In Active Area、表示領域内に物理的な穴を開ける技術)によって3つの円形カットアウトが設けられ、そこから本物の物理針が突き出すという仕組みです。

HIAA自体はSamsungがスマートフォンのインカメラ用パンチホールで長年磨いてきた技術ですが、スマホのセルフィーカメラ用の穴径は最大でも5mm程度であるのに対し、Ferrari Luceの計器盤に開けられる穴はおよそ20倍にもなる、と報じられています。穴を大きくしながらアクティブエリアの発光性能を維持する難度は、スマホ用パンチホールとは比較になりません。

平面ガラスに2D表示を載せた一般的な車載液晶メーターは、どうしても「画面を見ている」という感覚が残ります。これに対し、物理針と二層OLEDの組み合わせは、針自体が表示の上から物理的に突き出すため、針と背景の間に視差(奥行き)が生まれ、機械式時計に近い立体感と高級感を視認性とともに両立しやすくなります。

中央の3本針は時計にもストップウォッチにもなる——10.1インチ+後席6.3インチ

中央のコントロールパネルには10.1インチのOLEDが配置され、こちらも同じHIAA技術を使って3本の物理針が表面に突き出します。時計の時針・分針・秒針のように動くこの3本の針は、ユーザー設定によって時計・ストップウォッチ・コンパスなど複数の機能に切り替えられる仕様です。物理針を残したまま「役割だけソフトウェアで差し替える」というアイデアは、計器の物理性とデジタルの柔軟性を両立させる設計上のひとつの解答と言えます。

後席乗員向けには6.3インチのOLEDが用意され、空調コントロール、走行ダイナミクス情報の表示などを担当します。スマートフォンと同程度のサイズ感のパネルを、リアシート専用UIに使う構成です。

Ferrari R&D責任者の公式コメント

Ferrari Chief Research & Development OfficerのErnesto Lasalandra氏は、今回のSamsung Display採用について次のように述べています。

「Samsung Displayは、Ferrari Luceが掲げるソフトウェアとハードウェアのシームレスな統合という設計思想を全面的に支えることができた。Ferrari Luceに採用された全く新しいディスプレイシステムは、フェラーリの伝統と未来志向のテクノロジーが調和して共存する、これまでにないコックピット体験を提供する」

Lasalandra氏は、Ferrari Luceに採用された新ディスプレイシステムについて、フェラーリの伝統と未来志向のテクノロジーが調和して共存するコックピット体験を提供すると述べています。価格€550,000(約9,400万円)のフラッグシップ車両のコックピット表現の中核に、スマートフォン由来のディスプレイ技術が組み込まれる構図は、デジタル一辺倒に振れた近年の車載UIへのアンチテーゼとも読める、との見方もあります。

購入対象になり得る層は極めて限られますが、HIAA技術がスマホのパンチホール(最大5mm程度)からクルマのコックピットへと約20倍スケールでスケールアップしていく流れと、Sir Jony Ive氏の設計思想が次にどこへ向かうのかを観察するための、象徴的な事例として位置づけるのが妥当でしょう。

Ferrari Luceの車両性能とEVとしての設計思想

Ferrari Luceは単なる「内装が斬新なEV」ではなく、フェラーリ初の完全電動車として車両側にも野心的なスペックが盛り込まれています。

  • パワートレイン: 4基の電気モーターで最大1,035馬力、122kWhの大容量バッテリーを搭載
  • 加速性能: 0-100km/hを2.5秒で駆け抜けるクワッドモーター構成
  • 航続・空力: ドラッグ係数0.254はフェラーリ史上最低値で、満充電で最大530kmの走行が可能
  • 生産・発売: 生産は2026年後半に開始、米国市場での販売は2027年第2四半期

サウンド面でも独自のアプローチが採られており、リアアクスルに音響ピックアップを搭載してリアモーターの振動をサンプリングし、その信号をアンプ的な装置で増幅して特徴的なサウンドを生成する仕組みです。フェラーリ自身がこれを電気ギターのアンプになぞらえています。さらにバッテリーセルは韓国SK製ですが、モジュールはフェラーリが内製しており、将来的に異なるセルへ載せ替えられる設計で陳腐化リスクを抑える狙いがあります。

市場と業界の反応——高級EVセグメントの逆風の中で

ディスプレイの話題性とは裏腹に、Luce発表直後の資本市場と業界アナリストの反応は冷静、というよりむしろ厳しいものでした。発表翌日のニューヨーク市場でフェラーリ株は5%超の下落を記録しています。

「RACE(フェラーリ)は新規顧客発掘力を相当発揮する必要がある。我々の調査では、既存のフェラーリ顧客からのLuceへの需要はほとんど見られない」(Evercore ISI、Michael Binetti氏)

これは、フェラーリ自身が前年の資本市場デーで、Luceの購入層を新規顧客80%・既存顧客20%という構成で狙うと公言していた戦略とも整合しており、伝統的なフェラーリファン層に売る車ではないことを暗に示しています。背景にある高級EV市場の逆風も無視できません。ライバルのランボルギーニは需要不足を理由にEV計画をキャンセル、ベントレーは初のEVを複数回にわたり延期している状況です。一方でSamsung Display側は技術的優位を強調しており、同社は2019年に業界初のホールディスプレイを投入して以来HIAA技術を磨き、現在500件以上の関連特許を保有しています。

Q&A

Q. HIAA技術とは何ですか? Samsungが持つ「Hole In Active Area」の略で、有機ELパネルの表示領域内に物理的な穴を開ける技術です。スマートフォンのインカメラ用パンチホール(最大5mm程度)として実用化されていますが、Ferrari Luceの計器盤ではその約20倍の大きさの穴を開け、物理針を貫通させる用途に転用されています。

Q. なぜディスプレイを二層構造にする必要があるのですか? 下層パネル(12インチ)でゲージの目盛りなどの背景を描き、上層パネル(12.9インチ)に開けた円形カットアウトから物理針を突き出させるためです。これにより、フラットなガラス面に2D表示を載せる一般的な車載UIと異なり、三次元的なメーター表現が可能になります。

Q. なぜFerrariはスマホ向けディスプレイで知られるSamsungを選んだのですか? 公開情報の範囲ではFerrari側が選定理由を直接説明していませんが、Lasalandra氏は「ソフトウェアとハードウェアのシームレスな統合という設計思想をSamsung Displayが全面的に支えた」と述べています。HIAA・二層スタック・4サイズ(12.9・12・10.1・6.3インチ)のOLEDをワンセットで供給できる体制は、スマホ向けで先端パネルを量産してきたSamsungならではの強みであり、Sir Jony Ive氏が掲げる「内外装の一体感」を車載側で実装するうえで親和性が高い、との見方もあります。

出典

ポストLINEで送るはてブ
GD

GadgetDrop 編集部

スマホ・PC・AI・XRなど幅広いテクノロジーを、スペックの行間まで読む視点で解説します。速報から深掘り分析まで、テック選びと業界理解に役立つ情報をお届けしています。