GadgetDrop
その他注目

元Epic幹部が欧州産ゲームエンジン「The Immense Engine」開発中——AIで「10〜15人分の仕事」を狙う

GadgetDrop 編集部8
元Epic幹部が欧州産ゲームエンジン「The Immense Engine」開発中——AIで「10〜15人分の仕事」を狙う

「優れたAIエージェントのフレームワークを構築できれば、10〜15人分の仕事をこなせる」——こう語るのは、Unreal Engineの元グローバル製品管理ディレクターであるArjan Brussee氏です。同氏は現在、米国・中国製エンジンに対抗する欧州産ゲームエンジン「The Immense Engine」を開発中であることを明らかにしました。完全に欧州ホスト型・欧州人による開発・欧州規制準拠を掲げ、AIエージェントの徹底活用で少人数開発を実現する構えです。

Killzone・Unreal Engineを率いた重鎮が手掛ける新エンジン

The Immense Engineの開発者であるArjan Brussee氏は、ゲーム業界で30年以上のキャリアを持つオランダ人開発者です。「この人が言うなら聞く価値がある」と思わせるだけの実績が並びます。

  • 1990年代:Epic Gamesで『Jazz Jackrabbit』シリーズをプログラミング
  • 2003年:『Killzone』シリーズで知られるGuerrilla Gamesを共同創業
  • 2012年:Boss Key Productionsを設立
  • 2018〜2023年:Epic Gamesに復帰し、Unreal Engineのグローバル製品管理ディレクターを務める

つまりBrussee氏は、世界トップクラスのファーストパーティスタジオを立ち上げた経験と、世界最大級の商用ゲームエンジンを統括した経験の両方を持つ人物です。そのキャリアの持ち主が次に着手したのが、欧州製ゲームエンジン「The Immense Engine」となります。

計画はオランダのポッドキャスト「De Technoloog」のインタビューで明らかにされ、Video Games Chronicleが伝えたとTom's Hardwareは報じています。

「完全に欧州ホスト型」が意味するもの——Unreal/Unityからの脱却

UnrealやUnityは現在のゲーム開発で主流の選択肢です。なお、Unityはデンマーク発祥ながら2009年にサンフランシスコへ移転しています。Brussee氏は米国・中国製エンジンへの対抗軸として、欧州ユーザー向けの選択肢を構築する考えを示しています。

The Immense Engineが掲げるコンセプトは次の通りです。

  • 完全に欧州内でホストされる
  • 欧州人によって開発される
  • 欧州のルール・ガイドラインに準拠する

ゲーム開発者・テック層にとってのポイントは、UnrealやUnityに依存しない第三の選択肢が生まれ得るという点です。データホスティングが欧州内で完結し、欧州の規制に準拠することは、データ主権やコンプライアンスを重視する欧州の企業・公共機関にとって採用しやすい条件となります。

Tom's Hardwareは、欧州内ホスト・欧州規制準拠という性質から、ゲーム制作にとどまらず、3Dシミュレーションを活用する防衛・物流分野、さらには中央政府や地方自治体のプロジェクトでの採用にもつながり得ると指摘しています。実際、日本では地方自治体が大規模な土木プロジェクトで米国製ゲームエンジンを活用している事例があり、Brussee氏もこうした実用領域を視野に入れているようです。

AIエージェントで「10〜15人分の仕事」——少人数開発の現実解

Brussee氏のもう一つの注目発言は、AIの積極活用です。同氏はAIを敬遠するのではなく、限られた開発リソースを補う武器として捉えています。

「もし賢く、優れたAIエージェントのフレームワークを構築できれば、10〜15人分の仕事をこなせる」

Unreal・Unityという巨大エコシステムを相手にする以上、伝統的な大規模スタジオ体制では勝負になりません。AIエージェントによるレバレッジは、後発エンジンが現実的に成立するための必須条件と読めます。

なお、エンジンの開発プロセスにAIエージェントを活用する方針は明確ですが、The Immense Engine自体にAIツールが組み込まれるかどうかは現時点では明らかになっていません。

欧州テック自立の流れに乗れるか——後発の壁とAIレバレッジ

欧州ではクラウド・半導体・AIなどの分野で「域内完結」を志向する動きが強まっており、The Immense Engineもこの潮流に位置づけられるプロジェクトです。ゲーム開発者にとってはUnreal・Unity以外の選択肢が増える可能性があり、政府系プロジェクトに使えるツールとしても価値が見込まれます。

一方で、UnrealやUnityが築いてきたエコシステム・ドキュメント・アセットストアといった蓄積は膨大で、後発が市場に食い込むハードルは決して低くありません。AIエージェント活用による少人数開発がどこまで通用するか、続報が注目されます。

AIネイティブ設計の中身——レガシーフリーの強みと外部LLM依存という弱点

The Immense Engineの技術的な新規性は、AIを後付けではなく基盤要素として組み込む点にあります。ゼロからAIワークフロー向けに設計されているため、UnrealやUnityのように数十年分のレガシーコードを抱える必要がない点が特徴です。後発であることが、むしろアーキテクチャ上の自由度につながる構図と言えます。

「欧州主権」を揺るがす外部依存

ただし独立性の物語には穴があります。

  • AIエージェントスタックは現状、OpenAIやAnthropicといった米国プロバイダーに依存しています
  • Brussee氏は欧州LLMの代替としてMistralに言及したものの、統合は未確定の段階にとどまっています

「完全に欧州ホスト型」「欧州規制準拠」を掲げる以上、AI基盤の外部依存は理念との整合性が問われる部分です。Mistralをはじめとする欧州LLMへの切り替えがどこまで進むかが、The Immense Engineの「欧州主権」を実質的に担保できるかどうかの試金石となります。

後発エンジンが直面する市場環境——Godot・Decima・EU政策の追い風

The Immense Engineが参入する市場は、Unreal一強ではなくなりつつあります。業界は2023年末、Unityが月額ロイヤリティの導入計画を発表した際に集合的なトラウマを経験し、多くのスタジオが単一ソース依存の見直しを迫られました。その結果、Godotがインディー開発者層でライセンス変更リスクへのヘッジとして台頭しており、後発エンジンは商用大手だけでなくオープンソース勢力とも競合することになります。

一方で、欧州産エンジンが採用され得る前例も存在します。SonyはGuerrilla製のDecimaエンジンをサードパーティ開発者にライセンス供与する計画を進めており、欧州製エンジンが市場で支持を得られることを示しています。

政策面の追い風も無視できません。

動き内容
EU Tech Sovereignty Package2026年に準備中。半導体・クラウド・AI・オープンソースで非欧州依存を削減
フランス政府2026年春に250万人の公務員をMicrosoftからLinuxへ移行する計画を発表

公共調達における「欧州優先」の機運は、後発エンジンの追い風となり得ます。

Q&A

Q. なぜ今このタイミングで欧州産ゲームエンジンなのですか? ソース記事は明示的な理由を述べていませんが、Brussee氏が「完全に欧州ホスト型・欧州人による開発・欧州の規制に準拠」という3点を強調していることから、データ主権や規制対応への関心が高まる欧州の文脈が背景にあると読めます。また、AIエージェントの台頭により少人数でも大規模ソフトウェア開発が現実的になってきたタイミングである点も、本人の発言から読み取れます。

Q. Brussee氏の過去実績から見て成功可能性はありますか? Brussee氏はGuerrilla Games共同創業者として『Killzone』シリーズを成功させた実績があり、さらに2018〜2023年にはUnreal Engineのグローバル製品管理ディレクターを務めていました。商用ゲームエンジンの内側を知る人物が後発エンジンを率いるという点で、技術・組織の両面で類例の少ない布陣ですが、UnrealやUnityのエコシステムの厚みを考えると、成功可否は現時点では未知数です。

Q. The Immense Engineはいつリリースされますか? 具体的なリリース時期は現時点で公表されていません。開発がすでに進行中であることのみ明らかになっています。

Q. UnrealやUnityと比較してどのような技術的優位性がありますか? 技術的なスペックや機能差については現時点で詳細は明らかになっていません。差別化要素として示されているのは、欧州ホスト型・欧州規制準拠という運用面の特徴です。

出典

ポストLINEで送るはてブ
GD

GadgetDrop 編集部

スマホ・PC・AI・XRなど幅広いテクノロジーを、スペックの行間まで読む視点で解説します。速報から深掘り分析まで、テック選びと業界理解に役立つ情報をお届けしています。