「AIの計算でマイニングする」と謳うブロックチェーン「Pearl」が、実際には有用なAI演算をまったく行っていない可能性があるとする研究プレプリントが公開された。RTX 3090相当のGPU約32万枚が稼働するとされるネットワークの問題は、GPU賃貸市場にも波及している。
PearlのPoUWとは何か——"AI×マイニング"の仕組み
PearlはProof-of-Useful-Work(PoUW)を採用したレイヤー1ブロックチェーンだ。Bitcoinが使うSHA-256ハッシュ演算の代わりに「cuPOW」と呼ぶ独自スキームを採用し、マイナーにノイズを加えた整数行列の乗算を実行させる。ニューラルネットワークの推論・学習の中核も行列演算であるため、Pearlは「マイニングとAI計算を同一の作業として行える」と主張してきた。
2026年5月にはTogether AIが独占提携を発表。「すべてのGPUサイクルがAI訓練・推論を動かしながらPRLトークンも生成する」と説明し、Gemma-4-31B-it-pearlの推論エンドポイントをマイニング収益で補助する形で提供するなど、構図を強調していた。
研究が指摘する"検証の穴"——ランダム行列でも報酬を取得
Abhinaba Basu氏がまとめた研究プレプリント「The Usefulness Gap in Proof-of-Useful-Work」は、Pearlプロトコルが行列乗算の正確性しか検証していないと指摘する。入力行列が実際のAIモデルや有料顧客のワークロードに由来するかは一切確認されない、というのが核心的な批判だ。
Basu氏はこの構造的なギャップを実証するため、実際のAI推論とは無関係なランダム行列を入力するマイナーを実装し実験を行った。NvidiaおよびAMDのハードウェアでプールへのシェア承認を44件取得し、オンチェーン報酬の受け取りにも成功したと報告している。本物のAI作業もランダムな数値も同等の報酬を得られるなら、プロトコルは両者を区別できておらず、マイナーがAI計算を省略するインセンティブが生まれるという論旨だ。
Basu氏はさらに、単一プールの8,012ワーカー(Pearl全ハッシュレートの約21%)を分析した結果、全員がAI推論に対応したハードウェアを保有しながら、主要マイニングバイナリには機械学習フレームワークに相当するコードが確認できなかったと述べている。ただし、この分析は文字列検査(string inspection)に基づいており、Basu氏自身が「ストリップ済みまたは難読化されたバイナリには通用しない」と認めており、「確定的な証拠ではなく強い状況証拠」として提示されている。
ランタイムプロファイリングでも同傾向が示された。マイナーが高い演算負荷と低いメモリ帯域幅使用を示した特性は、大量のメモリ帯域幅を消費するトランスフォーマー推論ではなく、単純な行列演算と整合する。
GPU市場への影響——vast.aiで賃貸料38%、年間追加コストは最大約60万ドルと推計
研究はGPU市場への波及も定量化している。マイニングソフトウェアが公開された2026年5月以降、GPU賃貸マーケットプレイスvast.aiでのバジェット向けGPU賃貸価格は約38%上昇し、稼働率は57%から94%へ急騰したとされる。
Basu氏は差分の差分(difference-in-differences)比較を用い、独立系研究者が競合するバジェットGPUの追加コストを年間約60万ドルと推計している。ただし同氏は、この数値が価格の事前安定性に関する仮定に依存することを明示している。
Pearlのネットワーク規模は約24エクサハッシュ/秒(EH/s)と推定されており、RTX 3090相当のGPU約32万枚・消費電力約112MWに相当するとされる。現在のPRLトークン価格0.76ドル前後では、RTX 3060 Tiなどのバジェットカードでわずかにプラスとなる水準で、RTX 3090では概ね損益分岐点付近だと研究は試算している。
NvidiaだけではないPoUW——AMD MI300XやApple M2でも動作を確認
研究はNvidia一極集中の前提も崩している。Basu氏はAMD Instinct MI300Xで秒間1,060万タイル(10.6 million tiles per second)を達成し、NvidiaのRTX 3090向けクローズドソースマイナーを上回る速度を記録したと報告する。同一ワークロードをサーバーCPUおよびApple M2(Metal Compute Shaderを経由)でもベンチマーク取得した。
演算の実態が汎用的な整数行列乗算である以上、ベンダーロックインは存在せず、マイニングがNvidiaのシリコンに集中する技術的な根拠はないとBasu氏は主張している。
今回のソース記事はBasu氏の反論を紹介する途中で終了しており、PearlおよびTogether AIの公式見解は全文が掲載されていない。続報に注目する必要がある。
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PRLトークンの価格推移とGPUレンタル相場の同時進行
PRLの市況は短期間で大きく揺れ動いています。価格・節目を整理すると以下の通りです。
| 時点 | 出来事 | 価格/指標 |
|---|---|---|
| 2026年4月27日 | メインネット稼働 | — |
| 2026年5月29日 | 上場後の最高値 | 約1.65ドル |
| 2026年6月中旬 | 直近スポット価格 | 約0.3897ドル |
上場先は依然マイナーな取引所にとどまり、流動性は薄い状況です。一方でGPU賃貸市場は別軸でも上昇しており、vast.aiのRTX 3090オンデマンド価格は2025年7月の0.12ドル/時から0.20ドル/時へと約66%上がっています。直近で観測された38%のバジェットGPU高騰は、この中長期的な上昇トレンドの上に重なって発生した格好です。PRL価格が高値の4分の1以下に下落しても賃貸料が高止まりしているという需給の非対称が、AI開発者側のコスト圧力として顕在化しています。
Together AI提携モデルが備える具体的なスペックと値下げ余地
Together AIで提供されるGemma-4-31B-it-pearlエンドポイントは、ベースモデルと同等の機能セットを維持しています。確認できる仕様は以下です。
- 32Kトークンのコンテキストウィンドウ
- Function Calling対応
- JSONモード対応
- テキスト入力に対応するサーバーレス推論
- 標準料金から25%以上のディスカウント
割引の財源はPRLのマイニング報酬で、推論ワークロード上で副次的に得られた暗号学的な証明をトークン排出に変換し、そのまま顧客向け料金の補助に回す設計です。Together AIはさらに、PRLのスポット価格が上昇すれば、Pearl発行量から得られる価値を一段と値下げ原資に振り向ける方針を示しています。トークン価格と推論料金が連動する構造になっており、暗号通貨側のボラティリティが直接、AI APIのコスト体験に波及する点が運用上の論点になっています。
<!-- ENRICH:END -->Q&A
Q. Pearlのマイニングは本当にAIの役に立っていないのか? 研究プレプリントはそう主張しているが、査読前の論文であり確定的な結論ではない。Pearlのプロトコルが行列演算の正確性しか検証せず、実際のAIワークロード由来の入力かどうかを判定しない、という構造的な問題が指摘されているが、ストリップ済みバイナリへの対応など一部の根拠には限界も認められている。
Q. GPU賃貸価格の高騰は今後も続くのか? 今回の38%上昇はPearlマイニングの普及に伴うものとされているが、PRLトークン価格の変動により採算性が変化すれば状況も変わりうる。RTX 3090では現時点で概ね損益分岐点付近とされており、マイニングの収益性が下がれば需給も緩む可能性がある。現時点ではリークに基づく見通しがなく、続報を待つのが妥当だ。
出典
- Tom's Hardware — AI cryptomining network's 320,000 RTX 3090-class GPUs allegedly burn 112 megawatts of power on ‘zero useful AI computation’ — GPU rental costs jump 38%, but Pearl’s cards are doing random matrix math, study claims
- Hashrate Index — Pearl (PRL): The AI-Compute Cryptocurrency, Explained
- Together AI Blog — Together AI and Pearl Research Labs Team Up to Reduce the Cost of AI Inference