PCを「床に置く箱」から「壁に掛けて魅せるオブジェ」へ——Singularity Computersが発表した「Portal Advanced」は、そんな発想を地で行く壁掛けディスプレイ型のハイエンド水冷PCケースです。価格は黒モデルが$499(約7万8千円)、白モデルが$599(約9万4千円)で、従来モデル「Portal」($399/約6万3千円)の上位版という位置づけ。ディストリビューションプレートとD5ポンプトップ・リザーバを最初から内蔵し、ハードウェアを壁面に展示することを前提に設計されているのが最大の特徴です。
壁に掛けて魅せるための水冷前提設計
Portal Advancedはアルマイト処理を施した6061アルミニウム、キャストアクリル、スチールを組み合わせた構造で、mini-ITXからE-ATXまで幅広いマザーボード規格に対応します。従来のPortalに対して、新しいカラーテーマ、フルリアパネル、専用の電源ユニットカバーが追加され、外観の完成度が高められています。標準のブラック/ホワイトに加え、追加オプションとしてカーボン、シルバー、ゴールドミラーの仕上げが選べる点も、見せるPCとしての訴求点です。
最大の見どころは、D5ポンプトップとリザーバを統合したディストリビューションプレートが標準で組み込まれている点です。互換ポンプはD5規格であれば自由に選べますが、ポンプ本体とラジエータはユーザー側で用意する必要があります。マザーボードの両側に最大420mmラジエータを2基、厚みを問わず搭載できるため、ハイエンドCPUやGPUを積んだ構成でも冷却余裕は大きく取れる設計です。フィルポートとドレインポートは標準的な12 G1/4"フィッティング規格を採用しています。
ハードウェア互換性と制約
オープン構造を活かし、グラフィックスカードの長さに事実上の制限はなく、最大級のハイエンドGPUを縦・横どちらの向きでも設置できます。一方で電源ユニットは長さ9.8インチ(250mm)を超えてはならず、ここだけが明確な制約となります。市場の標準的な電源や大容量電源の多くはこの長さに収まるため、現実的には大きな問題にはなりにくいでしょう。
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 対応マザーボード | mini-ITX 〜 E-ATX |
| ラジエータ | 最大420mm×2(両側、厚さ問わず) |
| ポンプ | D5互換(別売) |
| 電源長 | 最大9.8インチ(250mm) |
| フィッティング | 12 G1/4" |
アクセサリと価格構成
Portal Advancedはアクセサリ展開も豊富です。脚部キット(オープンエアテストベンチ化)は約$119(約1万9千円)、ケーブル管理を補強するパワーボードが$149(約2万3千円)、VESAマウントは$29(約4,500円)で提供されます。さらにカーボン、シルバー、ゴールドミラー仕上げといった追加カラーオプションは+$49(約7,700円)です。
| モデル | 価格 | 標準Portalからの上昇率 |
|---|---|---|
| Portal(標準) | $399(約6万3千円) | — |
| Portal Advanced ブラック | $499(約7万8千円) | +25% |
| Portal Advanced ホワイト | $599(約9万4千円) | +50% |
$499は高いのか?水冷ビルド派にとっての損益分岐点
このケースは、ハイエンド水冷ビルドを壁掛けで魅せたいエンスージアスト向けの製品です。価格差は決して小さくありませんが、ディストロプレートやD5ポンプトップ・リザーバを個別に揃えるコストを考えれば、これらが一体化されている分、水路設計の出発点を最初から確保できる構成といえます。ポンプ・ラジエータの選定や水路レイアウトを自分で詰めたい人にとっては、設計の自由度と完成度のバランスが取りやすい設計です。逆にエアフロー重視や予算重視の自作派には、$499〜$599という価格帯はオーバースペック気味で、カラー追加(+$49)や白モデル(+$100)まで積み上げると合計コストはさらに膨らみます。
Singularity Computersの公式オンラインストアから直接注文でき、納期はおおよそ2週間と案内されています。購入を検討するなら、ポンプ・ラジエータ・電源(250mm以下)の選定を含めた総予算計画がポイントになります。
Portalエコシステムの広がり——上位機「Workstation」とPowerBoard単体販売
Portal Advancedの登場と前後して、Singularity Computersは同シリーズの周辺製品を急速に拡充しています。オーストラリア拠点の液冷ハードウェア専門メーカーである同社は、2026年4月22日にPortal Workstation Water-cooling CaseとPortal PowerBoardの2製品を追加で発表しました。
上位モデル「Portal Workstation」の位置づけ
Portal Workstationは$1,299で、SSI/ATX/E-ATX対応、最大560mmラジエータ×3、デュアルD5ポンプトップとリザーバを統合したディストリビューションプレートを備えています。Portal Advanced($499)との価格差は約2.6倍ですが、ラジエータ容量・ループ規模ともに大きく拡張されており、Portalシリーズが「壁掛けの魅せ筐体」から「大規模水冷プラットフォーム」まで連続したラインアップに成長していることがわかります。また、もともとPortal Wall Mountケース向けに開発されたPCBベースのケーブル管理システムであるPowerBoardは単体販売も開始され、独自アプローチを他ビルドにも応用できるようになっています。
2026年の壁掛け/オープンフレームPCケース市場で見たPortal Advanced
Portal Advancedを業界全体の文脈に置くと、壁掛けケースが依然として尖ったニッチであることが見えてきます。美観とフルカスタム水冷構成を重視するビルダーの間でショーケース型ケースへの需要は継続していますが、壁掛けフォーマットは従来のミッド/フルタワーに比べて配管レイアウトとラジエータ配置の自由度が大きい点で支持されています。
- Thermaltake Core P3が5年連続で壁掛け部門のトップピックに選ばれています(2026年更新版ランキング)
- 壁掛けPCケースは総じて高価で選択肢も限られ、Thermaltake Core P3が代表的な人気モデルとして挙げられています
- 2026年のPCケーストレンドとして「コンポーネントを彫刻のように飾るオープンエア設計」が紹介されています
つまりPortal Advancedは、Core P3に代表される「手の届く壁掛けケース」とは別軸の、ディストロプレート一体型という高付加価値で差別化を狙ったポジションにあるといえます。
Q&A
Q. Portal Advancedを買えばすぐ水冷PCが組めますか? いいえ。ディストリビューションプレート、D5ポンプトップ、リザーバは内蔵されていますが、ポンプ本体とラジエータはユーザー側で用意する必要があります。
Q. 追加アクセサリは必須ですか? 必須ではありません。ケース単体で壁掛け運用が可能です。ただし脚部キット(約$119)を追加するとオープンエアテストベンチとして床置きでも使え、VESAマウント($29)を使えば異なる設置形態にも対応できます。ケーブル取り回しを整理したい場合はパワーボード($149)の追加も検討できます。
Q. どんなGPUや電源まで載りますか? オープン構造のためグラフィックスカードのサイズに事実上の制限はなく、縦・横どちらの向きでも設置可能です。ただし電源ユニットは長さ250mm(9.8インチ)以内に収める必要があります。
出典
- Tom's Hardware — $499 case turns your PC into a liquid cooling masterpiece for your wall — Portal Advanced comes with an integrated distribution plate and reservoir to start of your build
- Vortez — Singularity Computers Launches Portal Workstation Case and Standalone PowerBoard Solution
- Guru3D — Singularity Computers Launches Open-Frame Wall-Mounted Liquid Cooling Chassis