「自分の子どもが、ある日突然SNSアカウントを使えなくなる」——カナダで提出された新法案が現実になれば、16歳未満のユーザーにそんな日が訪れます。カナダ政府は2026年6月10日、16歳未満の子どもによるSNSアカウントの保有を禁止する法案「Safe Social Media Act」を提出しました。Marc Miller カナダ・アイデンティティ・文化大臣による発表で、既に同様の規制を導入しているオーストラリア・インドネシア・マレーシアに続く動きです。さらにAIチャットボット事業者に対する新たな安全要件も盛り込まれており、生成AIの規制を巡る議論にも波及しそうです。
16歳未満はアカウント禁止——プラットフォームには「設計段階での安全配慮」を要求
法案では、16歳未満の子どもがSNSアカウントを持つことを禁止します。同時に、SNS事業者には子どもにとってより安全な設計を行うことが義務付けられます。具体的には、ディープフェイクや「子どもを性的に被害化する、あるいは被害者を再被害化する」コンテンツの削除が事業者に求められます。
加えて、AI生成コンテンツであることを示すラベル表示、有害コンテンツの明確な通報手段、ユーザーをブロックする機能の提供なども期待される対応として挙げられています。これらはいずれも、子どもが有害コンテンツにさらされ続けることを防ぐための仕組みです。
AIチャットボットは年齢制限の対象外——なぜ別枠で規制対象に?
注目すべきは、AIチャットボットサービスは今回の年齢制限の対象には含まれていない点です。Miller大臣は法案発表の記者会見で、その理由について次のように説明しました。
「チャットボットは、SNSプラットフォームによる害ほどには研究が進んでいません。SNSと同じ社会的役割を持っているわけでもありません」
ただし、法案には「AIチャットボットサービス」に関する規定も含まれています。その背景には、Tumbler Ridgeで発生した「shooting(銃に関わる事案)」に対するOpenAIの対応があると報じられています。詳細は公表されていませんが、この一件をきっかけに、AIチャットボットが危機的状況にあるユーザーへ適切に対応できなかった可能性が問題視され、カナダ政府は年齢制限とは別の枠組みでAIプラットフォームに対する規制条文を盛り込んだかたちです。具体的には、チャットボットが「有害コンテンツを発信する」リスクや有害な振る舞いに関与するリスクを軽減することが求められ、危機的状況に対処するための「緊急措置」の導入も期待されています。
新設の「デジタル安全委員会」が運用を担当
16歳という年齢要件以外の細則については、新設される「Digital Safety Commission of Canada(カナダ・デジタル安全委員会)」が定めるとMiller大臣は説明しています。同委員会は別途成立する「Digital Safety Commission of Canada Act」によって設立される組織で、規制の執行を担います。
委員会は、プラットフォームが子どもに対する「十分な保護策」を維持していると判断した場合、適用除外を認める権限も持ちます。つまり、画一的な禁止ではなく、各事業者の取り組み次第で柔軟な運用が行われる余地が残されているかたちです。
海外規制の流れと今回の位置付け
カナダの今回の動きは、オーストラリア・インドネシア・マレーシアに続く「年齢ベースのSNS規制」の新たな事例です。年齢を区切った「アカウント保有の禁止」というアプローチに加え、AIチャットボットサービスをSNSとは別枠で規制対象に加えた点も、今回の法案の特徴と言えます。具体的な運用ルールは新設のDigital Safety Commission of Canadaが定めるとされており、今後の細則の内容が注目されます。
Bill C-34の正式名称と規制対象の広がり
今回提出された法案は正式には「Bill C-34」と呼ばれ、「Digital Safety Act」と「Digital Safety Commission of Canada Act」という2つの新法を同時に制定する構成となっています。規制対象となる「ソーシャルメディアサービス」の定義には、従来型SNSに加えてライブストリーミングサービス、さらにユーザー投稿型のアダルトコンテンツサービスも含まれます。
規制対象となる7カテゴリの有害コンテンツ
- 児童を性的に被害化するコンテンツ、または被害者を再被害化するコンテンツ
- 子どもに自傷を促すコンテンツ
- 子どもへのいじめに用いられるコンテンツ
- 暴力を扇動するコンテンツ
- 憎悪を煽るコンテンツ
- テロリズムまたは暴力的過激主義に関するコンテンツ
- 同意なく共有された親密なコンテンツ
AIチャットボットについては、ユーザーが自殺・自傷の意思や他者への深刻な危害の意図を示した場合に対応する措置が義務付けられますが、企業側にそうしたやり取りを警察へ通報する義務までは課されていない点も明らかになっています。
先行するオーストラリアの執行状況が示す現実的な課題
カナダに先行して年齢ベースの規制を導入したオーストラリアでは、2026年に入って執行段階の難しさが浮き彫りになっています。2025年12月中旬までに、年齢制限対象プラットフォームは合計470万件の16歳未満アカウントを削除しましたが、eSafety委員会はこれを法が求める「合理的措置」基準を満たさないと判断しました。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 削除された16歳未満アカウント | 470万件 |
| 正式調査対象となった事業者 | 5社(Facebook、Instagram、Snapchat、TikTok、YouTube) |
| 違反事業者への最大民事制裁金 | 4,950万豪ドル |
| 禁止対象にアクセスを続ける16歳未満の割合 | 78% |
| 回避を試みた16歳未満の割合 | 41% |
2026年3月31日にはeSafetyが大手5社に対して正式な調査を開始しており、年齢確認の精度や運用設計が次の論点として浮上しています。カナダの「Digital Safety Commission of Canada」が細則を定めるにあたっても、こうした先行事例の課題が参照されることになりそうです。
Q&A
Q. 法案はすでに成立しているのですか? いいえ、2026年6月10日にMarc Miller大臣が提出した段階です。年齢要件以外の具体的なルールは、新設される「Digital Safety Commission of Canada」が定めることになっています。
Q. AIチャットボットも16歳未満は使えなくなるのですか? 今回の年齢制限の対象はSNSのみで、AIチャットボットは対象外です。ただしAIプラットフォーム側には、有害コンテンツの発信リスク軽減や危機対応のための「緊急措置」導入が求められます。
Q. 違反した事業者への罰則はどうなりますか? 具体的な罰則の内容は、公開情報の範囲では明らかにされていません。年齢要件以外の細則は新設の「Digital Safety Commission of Canada」が定めるとされており、執行はこの委員会が担います。
Q. 施行時期はいつですか? 現時点では法案が提出された段階であり、施行時期は明らかにされていません。委員会が定める細則と合わせて、今後の審議で具体化される見込みです。
Q. 対象となるSNSはどのサービスですか? 法案では具体的なサービス名は示されておらず、対象範囲や適用除外の判断は新設の委員会に委ねられます。委員会は、事業者が「十分な保護策」を維持していると判断した場合に適用除外を認める権限を持ちます。