「永遠の若さ」と引き換えに失うものがあるとしたら——あなたはその治療を受けますか。Nick Cutter氏の新作長編『The Dorians』は、死の淵にある5人にそんな取引を持ちかけるところから始まる、ボディホラー要素を含むスリラーです。一方、Lorenzo De Felici氏のコミック『Red Roots』は、「いったい何が起きているのか」とページをめくるたびに困惑させられる予測不能の怪作。Engadgetが2026年5月30日付の週末読書コラムで、この2作品を取り上げました。読み心地はまったく異なりますが、どちらも不穏で先の読めない、週末をじっくり消費するのに向いた2冊です。
永遠の若さと引き換えに失うもの——Nick Cutter『The Dorians』
Gallery Booksから刊行されたNick Cutter氏の『The Dorians』は、タイトルからも察せられるとおり、Oscar Wildeの『The Picture of Dorian Gray(ドリアン・グレイの肖像)』を主要なインスピレーション源にした作品です。
物語は、死の床にある5人の人物が、ある謎の人物から「人生をやり直す第二のチャンス」を持ちかけられるところから始まります。提示されるのは、若さを取り戻せるという実験的な治療。本書の紹介文には、次のような一節が引かれています。
「驚くべき秘密は、ある古代の並外れた生物学的因子をハイテクで制御することにある——良心は持たぬが、ただひとつの目的、すなわち生き延びんとする意志によって永劫の時を生き続けてきた存在を」
Engadgetのレビュアーは、序盤の構造について、対人スキルに難のある若き天才が「永遠の若さ」の秘密を解き明かしてしまい、その結果として道徳的にも物理的にも破局へと突き進んでいく流れが、『Alien: Earth』を想起させたと評価しています。スリリングな読み心地に加え、思わず身震いするようなボディホラー描写("real shudder-inducing body horror")も含まれており、生理的に怖がらせにくるタイプの一冊と読めます。「永遠の生」というモチーフが好物の読者、あるいは肉体の崩壊そのものを描く重ためのホラーを覚悟して読みたい読者に向いている作品です。
何が起きているのかすら掴めない——Lorenzo De Felici『Red Roots』
もう1作はImage Comicsから出ているLorenzo De Felici氏のコミックシリーズ『Red Roots』。レビューは第1号と第2号までを対象としており、第2号は今週リリースされたばかりです。
冒頭で描かれるのは、一見すると無関係な2人の人物。1人は、ある日自宅で何か恐ろしいものを目にしてしまう女性教師(具体的に何を見たのかは作中で明かされる仕掛けで、ここでは伏せられています)。もう1人は、殺戮を繰り返している男です。互いに接点のないように見える2つの物語が交錯したとき、状況はさらに奇妙な方向へと転がっていきます。
レビュアーは、ページをめくるたびに「いったい何が起きているんだ?!」と口にしてしまう展開が連続し、それを良い意味で受け止めたと書いています。第1号の時点で次の展開がまったく予測できなかったところに、第2号がさらに困惑度を増幅させてきた、というのが現時点での評価です。先の読めない独立系コミック、シナリオより「読み味の異常さ」を楽しみたい読者に刺さるタイプの1冊と言えます。
どちらをどう読むか——タイプ別ガイド
『The Dorians』はボディホラーと道徳的崩壊を真正面から描く重量級のスリラー、『Red Roots』は構造そのものが捻じれた予測不能のコミックと、両者は質感の異なる作品です。
- 一晩腰を据えて怖がりたい・「永遠の生」「肉体の崩壊」というテーマに耐性のある読者には『The Dorians』
- 短時間でも強い違和感に浸りたい・連載の今後を追いかける楽しみが欲しい読者には『Red Roots』
週末の時間に何を読むか迷っているなら、まずは紹介された2作品の冒頭を試し読みしてから選ぶのが手堅い判断と言えそうです。
Nick Cutterの著者背景と『The Dorians』が継ぐホラー系譜
『The Dorians』は2026年5月19日にGallery Booksから刊行されています。Nick Cutterは、1975年トロント生まれのカナダ人作家Craig Davidson氏が用いるホラー専用ペンネームで、息子の名「Nick」とグラインドハウス的な響きを意識した「Cutter」を組み合わせて命名されたとされています。
Cutter名義のこれまでの長編
- The Troop(2014)
- The Deep(2015)
- The Acolyte(2015)
- Little Heaven(2017)
- The Breach(2020)
- The Handyman Method(2023、Andrew F. Sullivan氏との共著)
- The Queen(2024)
『The Dorians』の舞台は人里離れたカナダの島に置かれており、5人の被験者が外界から隔絶された場所で老化を逆転させる治療に挑むという閉鎖空間構造が採られています。複数のレビュアーは、ボディホラーの源流として1980年代の『The Thing』や『The Fly』を挙げており、Cutterがこれまで積み上げてきたグロテスクな身体描写の系譜を継ぐ一作として位置付けられています。
『Red Roots』第1号が即完売、第2刷を緊急投入
『Red Roots』第1号は2026年4月29日に48ページ・4.99ドルで発売され、Image Comicsの発表によれば流通レベルで即時完売しています。これを受けて第2刷が急遽発注され、2026年6月10日に店頭へ並ぶ運びとなりました。第2刷にはDe Felici氏に加え、Declan Shalvey氏とIsabella Mazzanti氏が手掛ける新カバーが追加されています。
| 号 | 発売予定日 |
|---|---|
| #1 | 2026年4月29日 |
| #2 | 2026年5月27日 |
| #3 | 2026年6月24日 |
| #4 | 2026年7月29日 |
さらに第3号にはShalvey氏とMazzanti氏によるサプライズのバリアントカバーが用意されており、コレクター需要も意識した展開が続いています。De Felici氏は本シリーズで脚本・作画・着色をすべて単独で担当しており、Skyboundの人気シリーズ『Void Rivals』の共同クリエイターとしても知られる作家です。
Q&A
Q. どちらを先に読むのがおすすめですか? 読み応えと所要時間がまったく違うため、長めの時間を確保できる週末なら『The Dorians』を、まとまった時間が取りにくいなら短時間で読めるコミック『Red Roots』第1号から入る、という選び方が現実的です。
Q. ホラーが苦手でも楽しめますか? 『The Dorians』は身震いするタイプのボディホラー描写があるとレビュアーが明言しているため、苦手な読者にはハードルが高い可能性があります。『Red Roots』も冒頭で「恐ろしい発見」と殺戮を繰り返す男の場面が登場するため、暴力描写への耐性は必要です。
Q. レビューしたのは誰ですか? EngadgetのCheyenne MacDonald氏が、2026年5月30日付の週末読書コラムで取り上げています。
出典
- Engadget — What to read this weekend: The Dorians and Red Roots
- Grimdark Magazine — REVIEW: The Dorians by Nick Cutter
- Image Comics — RED ROOTS DEBUTS WITH IMMEDIATE SELL-OUT, RUSHED BACK TO PRINT THIS WEEK