125億年前に生まれた星の塊が、天の川銀河の中心で今も生き残っている可能性が示されました。長年「球状星団」として分類されてきたTerzan 5について、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の観測チームは「バルジ化石片(bulge fossil fragment)」と呼ばれる現象の存在を確認したと報告しています。Tomorrow Spaceが2026年6月16日に報じています。私たちが暮らす銀河がどのように生まれたのか、その手がかりとなる発見だと位置づけられています。
Terzan 5は「球状星団」ではなかった
Terzan 5は天の川銀河中心部の「バルジ」と呼ばれる領域に位置しており、星の密度が高く塵も多いため、これまで天文学者にとって観測が難しい対象でした。研究チームはJWSTによる新規観測に加え、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)のアーカイブデータを組み合わせて解析しました。
Tomorrow Spaceによると、その結果、Terzan 5はこれまで分類されてきた「球状星団」ではないと研究チームは結論づけたとされています。球状星団は通常、単一の古い星種族のみを含むのに対し、Terzan 5には少なくとも4回の異なる星形成フェーズの痕跡が見つかったと報告されています。
125億年前から25億年前まで、4回の星形成
研究チームの調査によれば、Terzan 5には以下の4つの星種族が存在するとされています。
- 約125億年前に形成された最古の星種族
- 約47億年前に形成された古い星種族
- 約38億年前に形成された比較的新しい星種族
- 約25億年前に形成された最も新しい星種族
これほど時代の異なる星々が一つの天体内に共存していることは、Terzan 5が単純な星団ではなく、銀河形成過程の「生き残り」である可能性を示唆すると研究チームは述べています。
「バルジ化石片」とは何か
ウェッブ観測の主任研究者でボローニャ大学教授のFrancesco R. Ferraro氏は、次のように説明しています。
「何らかの理由で、この奇妙な星の塊はバルジとは別に形成され、バルジ自身が形成される過程でも破壊されずに残ったのです。Terzan 5は、バルジの形成に寄与した原始的な塊に似ているため、私たちはこれを『バルジ化石片』と呼んでいます」
共著者でボローニャ大学准教授のBarbara Lanzoni氏は、初期宇宙の銀河形成シナリオについて次のように述べています。
「観測と詳細なシミュレーションに基づき、初期宇宙の銀河には巨大なガス円盤があり、それが塊に分裂して星を形成したと考えられます。これらの塊は銀河中心へと移動し、その多くが合体してバルジを形成しました」
つまりTerzan 5は、現代まで残った「バルジ形成の原材料」に似た天体だと研究チームは位置づけています。
JWSTが開く銀河考古学の新たな手がかり
今回の成果は学術誌『Astronomy & Astrophysics』に掲載されました。バルジは銀河中心の最も古い構造の一つとされながら、その形成過程は直接観測が難しい領域でした。Terzan 5が「化石片」として残っていたことで、研究者たちは天の川銀河の形成過程を検証する新たな手がかりを得たとされています。
私たち自身が住む天の川銀河の「生まれ方」を、より具体的な観測根拠とともに語れるようになる可能性がある——これが今回の発見の位置づけだと言えるでしょう。JWSTが今後どのような追加の観測成果を示すのか、続報に注目です。
NIRCamと固有運動測定が支えた今回の解析
今回の解析は、JWSTとHubbleに加えて地上の大型望遠鏡まで動員した複合観測によって成立しています。
| 観測リソース | 役割 |
|---|---|
| JWST / NIRCam(F115W・F200Wフィルター) | バルジ内部の密集領域を近赤外で分解 |
| HST / ACS(アーカイブ光学データ) | 12年前の星位置を提供し基準点として機能 |
| W.M. Keck Observatory・ESO VLT | 地上からの分光・補助観測 |
Terzan 5は地球から約22,000光年(5.9kpc)離れたいて座方向に位置しており、塵による減光が強い領域です。研究チームはJWSTとHubbleの12年間の時間差を利用して、個々の星の微小な固有運動を測定しました。これによって、Terzan 5に属する星と、その手前や奥にある天の川バルジ本体の星を統計的に切り分けることが可能になり、4つの星種族の年代決定の精度を高めたと説明されています。
Terzan 5を「化石」たらしめた質量の大きさ
Terzan 5が「化石片」として現在まで残り得た背景には、その重力的な深さが関係しているとされます。
- 現在の恒星質量は (2±1)×10⁶ M☉ ないし (1.09±0.08)×10⁶ M☉ と見積もられています
- 初期質量はこれより遥かに大きかったと推定されています
- 超新星爆発で放出された鉄に富むガスを系外へ逃さず保持できる重力ポテンシャルを持っていたとされます
- その結果、後続世代の星形成材料が系内に蓄えられ、断続的な星形成が成立したと説明されています
この「自己強化(self-enriching)」のメカニズムこそが、複数世代の星種族を内包する独特な姿を生んだとされています。今回の成果は学術誌に掲載され、論文はarXivにプレプリント番号2604.00098として公開されています(観測プログラムGO5502、主任研究者Ferraro氏)。
Q&A
Q. 「バルジ化石片」とは何ですか? 銀河中心のバルジが形成される過程で、その原材料となった原始的な星の塊に似た天体を指すと研究チームは説明しています。今回、Tomorrow Spaceによれば、Terzan 5の観測を通じてその存在が確認されたと報告されています。
Q. なぜTerzan 5の観測はこれまで難しかったのですか? Terzan 5は天の川銀河中心部の「バルジ」と呼ばれる領域にあり、星の密度が非常に高く、塵も多いためです。今回はJWSTの観測能力に加え、ハッブル宇宙望遠鏡のアーカイブデータを組み合わせることで詳細な解析が可能になったとされています。