「AirPodsを着けたまま祖父母に近づいてはいけない」——そんな注意喚起を循環器内科医から受ける日が来るかもしれない。学術誌に掲載された研究が、AirPodsをはじめとする民生機器の磁場が心臓植込みデバイス(CID)に干渉する可能性を示している。
なぜ磁場がペースメーカーを誤作動させるのか
ペースメーカーや植込み型除細動器などのCIDには、MRIのような強磁場環境で自動的に「マグネットモード(磁石安全モード)」へ切り替わる機能が備わっている。これは磁場の強い医療処置中に患者を保護するための設計だ。
問題となるのは、この切り替えが民生機器の磁場によっても意図せず発生してしまう点である。CIDがマグネットモードに入ると、頻脈(タキカルディア)などの不整脈を検知できなくなる可能性がある。磁場が取り除かれれば通常モードに戻る設計だが、Engadgetが伝えるように、たとえ一時的であっても心拍監視の中断は重大な結果を招きかねない。
CIDがマグネットモードに切り替わる閾値は10ガウス以上の磁気誘導磁場とされている。参考として、土産物の冷蔵庫マグネットが約100ガウスを発することを考えると、民生機器が10ガウスを超えることは決して非現実的ではない。
AirPods・iPhone 12 Pro Max・Apple Pencilも対象——2022年論文の詳細
学術誌「Circulation: Arrhythmia and Electrophysiology」に掲載された2022年の研究は、この問題を定量的に分析した。その結果、AirPods、iPhone 12 Pro Max、Apple Pencil、Microsoft Surface Penの磁場が、植込み型除細動器・ペースメーカーその他のCIDを誤作動させる強さを持つことが示された。
同様の影響はスマートフォン全般・スマートウォッチ・電子タバコなど、他の民生機器でも確認されているとEngadgetは報じている。CIDへの干渉はAirPods固有の問題ではなく、希土類磁石(レアアースマグネット)を用いた小型民生機器の急速な普及が、医療インプラントにとって新たなリスクを生んでいるという構造的な問題だ。
ただし、この研究はペースメーカー装着者がAirPodsの使用を完全に禁止されることを意味するわけではない。Engadgetも「これは心疾患を持つ人がAirPodsを使えなくなるというわけでは必ずしもない」と述べている。
FDAとAppleが推奨する「6インチ(約15cm)ルール」
リスクに対して、FDAおよびAppleはそれぞれ具体的な指針を示している。
Appleのサポートページは、AirPodsなど電子機器を**心臓デバイスから少なくとも6インチ(約15cm)**離して使用するよう推奨している。FDAも同様に6インチ以上の距離を保つことを呼びかけており、加えて以下の対策を挙げている。
- スマートフォンやAirPodsを胸のシャツポケットに入れない(CIDに最も近くなるため)
- 不安な場合はホームモニタリングシステムでCIDが正常に動作しているか確認する
- めまい・意識消失・その他の心臓関連症状が現れた場合はただちに医師に相談する
CIDを装着している場合、日常的な使用ルールとしては「デバイスを胸ポケットに入れず、常に15cm以上の距離を保つ」が基本となる。心臓専門医の指示がある場合は、それを最優先すべきだとEngadgetは強調している。
CIDを装着しているか、家族・身近な人が装着している場合は、これらの指針を確認した上で使用習慣を見直すことが求められる。
Q&A
Q. AirPodsはペースメーカー装着者は使えないのか? Engadgetの報道によれば、使用が完全に禁止されているわけではない。ただし、Appleのサポートページが推奨する「6インチ(約15cm)以上の距離を保つ」というガイドラインに従い、胸ポケットへの収納を避けるなどの対策が必要だ。最終的な判断は担当の循環器内科医に確認することが推奨されている。
Q. AirPods以外のデバイスも同様のリスクがあるのか? 2022年の論文ではAirPodsに加え、iPhone 12 Pro Max・Apple Pencil・Microsoft Surface Penが対象として挙げられている。また、スマートフォン全般・スマートウォッチ・電子タバコなどでも同様の影響が確認されているとEngadgetは伝えており、AirPods固有の問題ではない。