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中国「Hanyuan-2」が“デュアルコア”量子コンピューターを主張か——200量子ビット・消費電力7kW未満・査読論文なしのリーク的発表

GadgetDrop 編集部8
中国「Hanyuan-2」が“デュアルコア”量子コンピューターを主張か——200量子ビット・消費電力7kW未満・査読論文なしのリーク的発表

中国の中国科学院(CAS)系列の武漢拠点企業CAS Cold Atom Technologyが、合計200量子ビット・消費電力7キロワット未満を主張する新システム「Hanyuan-2」を発表し、「世界初のデュアルコア量子コンピューター」だと位置付けています。中国国営紙Science and Technology Dailyが伝えた内容で、Tom's Hardwareが報じています。ただし査読論文や主要なベンチマーク指標は公開されておらず、現時点では裏付けに乏しいリーク的な発表と位置付けるのが妥当です。

Hanyuan-2が主張する「デュアルコア」構成

Hanyuan-2は、キャビネットサイズの筐体内に2つの独立した中性原子アレイを搭載し、合計200量子ビットを構成すると説明されています。内訳はルビジウム85原子100個とルビジウム87原子100個、合計200原子です。中性原子方式は、レーザーアレイで非帯電原子を捕捉・冷却し、個々の中性原子を量子ビットとして操作する技術です。

CAS Cold Atom Technologyの説明によると、2つのコアは以下の2モードで運用できるとしています。

  • 並列モード:2つのアレイで処理を分散させる
  • 「主・副」モード:一方が演算を担当し、もう一方がリアルタイムでエラー訂正を行う

同社のシニアエキスパートGe Guiguo氏はScience and Technology Dailyに対し、量子プロセッサがシングルコアからデュアルコア構成へ移行した初の事例だと述べたと報じられています。また、ゼネラルマネージャーのTang Biao氏によれば、本機は小型のレーザー冷却システムを備えたキャビネット型一体設計で、総消費電力は7キロワット未満に収まるとされます。

欧米勢との比較:200量子ビットは「周回遅れ」の可能性

中性原子方式の量子コンピューターでは、欧米勢がすでに大きく先行しています。Tom's Hardwareは以下の対比を挙げています。

企業主な実績
Atom Computing2023年に1,180量子ビットの中性原子アレイを実証、Microsoftと提携しエラー訂正済み論理量子ビットを商用ハードで提供
QuEra日本のNICT(情報通信研究機構)にエラー訂正対応機を納入、2025年までに2億3,000万ドル超を調達
CAS Cold Atom Technology(Hanyuan-2)200量子ビット

量子ビット数の規模で見れば、Hanyuan-2は欧米のトップ勢から大きく後れを取っているとTom's Hardwareは指摘しています。

査読論文も主要指標も非公開——「主張」と呼ぶべき理由

今回の発表で最も大きな問題点は、量子コンピューターの性能を評価するうえで欠かせない基本指標がいっさい公開されていないことです。

具体的に未公開とされているのは以下の指標です。

  • ゲート忠実度(gate fidelity)
  • コヒーレンス時間(coherence time)
  • エラーレート(error rate)

加えて、発表に併せた査読論文も存在せず、報道はすべて中国国営メディアに行き着くとTom's Hardwareは指摘しています。これは中国発の同種の発表によく見られるパターンであり、第三者検証が極めて困難な状況です。

なお、前世代機にあたる「Hanyuan-1」についても技術仕様の開示は限定的だったとされており、今回も同様の傾向が続いていると見られます。

デュアルコアは本当に新しいのか?欧米のモジュラー型と比較

「デュアルコア」という呼称は古典的なマルチコアCPUとの類比を意識したものですが、技術的にはモジュラー型量子コンピューティングに近い概念だとTom's Hardwareは分析しています。同じ方向性は欧米勢もすでにより大規模に追求しています。

  • IBM:超伝導プロセッサを古典・量子インターコネクトで接続
  • QuEra・Pasqal:単一アレイのスケールアップとモジュール間接続性の開発を並行
  • Atom Computing・Microsoft:ネットワーク化された量子プロセッサを前提とした統合システムを構築

Hanyuan-2はこれらネットワーク型アーキテクチャと比べ、両アレイを1台の筐体内に密に統合した形態です。ただしこのアプローチが、単一の大規模アレイをスケールアップする方式に対して実用上の優位性を持つのかは、現時点では未解明の問いとして残ります。本来であれば公開されたベンチマークがその答えの一助となるはずですが、それも示されていません。

現時点の評価:「世界初」の判断は保留が妥当

Hanyuan-2の発表は、合計200量子ビット(ルビジウム85×100+ルビジウム87×100)・消費電力7キロワット未満・デュアルコア構成といった見出しになる要素を備える一方、性能を客観的に評価する基礎データが揃っていません。中国国営メディア経由の情報のみで、独立した検証も査読プロセスも経ていない以上、現時点では「世界初のデュアルコア量子コンピューター」という主張をそのまま受け取るのは難しい状況です。

現状は「中国勢が中性原子方式で独自のアーキテクチャを提示した」という事実のみを押さえ、ゲート忠実度やエラーレートなど性能指標の公開、査読論文の発表を待って評価するのが妥当でしょう。続報を待ちたいところです。

Hanyuan-1からの性能改善とビジネス面の実績

CAS Cold Atom Technologyは、Hanyuan-2が前世代機Hanyuan-1から具体的な技術指標の改善を遂げたと説明しています。

指標Hanyuan-1Hanyuan-2
原子操作精度90%99%
原子の安定生存時間約20秒100秒超

第2世代システムでは原子操作精度がHanyuan-1の90%から99%へ向上し、デコヒーレンス前に量子状態を維持できる原子の安定生存時間も約20秒から100秒以上へ延長されたとされています。ただしこれらは元記事で指摘されているゲート忠実度やエラーレートとは別の自社開示値であり、独立検証は依然として欠けています。事業面では、Hanyuan-1プラットフォームが4,000万元超の受注を獲得し、China Mobileの子会社による購入とパキスタン向け輸出納入が含まれるとされています。さらにチップ製造、パッケージング、レーザー変調、位相ノイズ制御まで含めた開発チェーン全体が国内で構築されたとも説明されています。

2026年に動く中性原子量子コンピューティング業界の地図

Hanyuan-2発表の背後では、欧米勢が中性原子方式で論理量子ビット実装とスケール拡張を競っています。

  • Microsoft×Atom Computing「Magne」:50論理量子ビットを約1,200物理量子ビットから構築し、2027年初頭の稼働を目指します
  • QuEra:約37論理量子ビット・260物理量子ビットを備える機体を提供しています
  • Pasqal:2024年に1,000量子ビットへ到達し、2026年までに10,000量子ビットへ拡張する計画です
  • Google Quantum AI:個々の原子を量子ビットとして用いる中性原子量子コンピューティングへ研究領域を拡張すると発表しています

エラー訂正の効率化も進み、2026年4月にはQuEra・Harvard・MITが再構成可能な中性原子ハードウェアとqLDPC符号を用いて、量子エラー訂正で2:1の物理対論理量子ビット比を達成しています。Hanyuan-2の200量子ビットという規模感は、この地図の中で位置づけて読む必要があります。

Q&A

Q. Hanyuan-2は欧米の量子コンピューターより進んでいるのですか? 量子ビット数で見ると進んでいるとは言えません。Atom Computingは2023年時点ですでに1,180量子ビットの中性原子アレイを実証しており、Hanyuan-2の200量子ビットは大きく下回ります。また、性能評価に必要なゲート忠実度やエラーレートの数値が公開されていないため、現状で正面から比較すること自体が困難です。

Q. 「デュアルコア量子コンピューター」とは具体的に何が新しいのですか? CAS Cold Atom Technologyは、独立した2つの中性原子アレイ(ルビジウム85・ルビジウム87各100原子)を1つの筐体に統合し、並列処理または「主コアが演算・副コアがリアルタイムエラー訂正」という構成で運用できる点を新規性として主張しています。ただし、概念自体はIBMやQuEra、Atom Computingなどが追求するモジュラー型量子コンピューティングに近く、独自性や実用上の優位性については検証データが必要です。

Q. 消費電力7キロワット未満というのはどのくらいすごいのですか? キャビネット型筐体に小型のレーザー冷却システムを内蔵した一体設計で7キロワット未満に収まるとされており、運用面での効率を訴求する数字と言えます。ただし演算性能・忠実度などの指標が示されていないため、「電力あたりの性能」を他システムと比較することは現状ではできません。

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GadgetDrop 編集部

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