毎朝エディタを開いてCodexを立ち上げるたび、最初の10分間が「プロジェクトの文脈を一から教え直す作業」で消えていく——複雑な実プロジェクトでCodexを使い込むほど、多くの開発者がこの摩擦に直面します。Parth Shah氏は2026年5月31日付の解説で、Personalizationメニュー配下に隠れているCustom InstructionsとAGENTS.md、そして実験的なMemoryトグルを組み合わせることで、Codexを汎用コードジェネレーターから「自分のスタックを記憶した協働者」へ変えられると述べています。
デフォルト設定の壁——毎朝10分が「文脈リロード」に消える
Parth Shah氏はCodexを使い始めた当初、コードを高速に吐き出す性能に衝撃を受けたと振り返ります。しかし複雑な実プロジェクトに使い込むうちに、新しいセッションを開くたびに「完全な他人」として扱われる毎日が日課になってきたといいます。
- TypeScriptと関数コンポーネントを厳密に使っているという前提を覚えていない
- フォルダ構造を記憶していない
- 昨日決めた状態管理ライブラリの選択を引き継いでいない
結果として、コーディングセッションの最初の10分間は実装ではなくモデルへの文脈再入力に消えてしまうと書かれています。デフォルトのAI構成は幅広いアクセシビリティと派手な一発デモに最適化されており、説明文の多い汎用的な出力になりがち。Webブラウザのサンドボックスでは見栄えがしても、本番リポジトリに貼り付けた途端に破綻するというのが同氏の見立てです。
Custom InstructionsとAGENTS.mdで「ルール」をハードコードする
最初の打ち手として紹介されているのは、Codexの Settings → Personalization → Custom Instructions に独自のプロファイルを書き込む方法です。ここに書いた内容はあらゆるプロンプトに静かに注入され、モデルのベースライン挙動そのものを書き換えます。
さらにCodexは AGENTS.md というオープン標準の規約を採用しています。これはAIエージェント専用の特化型READMEに相当し、リポジトリのルートにチェックインしておけば、構造的なルールをコードベース側に直接ハードコードできる仕組みです。Parth Shah氏は、ダイヤモンドジュエリーの高級ブランド向けに深く複雑なデジタルブランディング・Eコマースプロジェクトを管理しており、AGENTS.mdの階層を活用することで、Codexがあたかもスタックを把握済みのスタッフエンジニアのように振る舞ったと評価しています。ファイルをプロジェクトルートにチェックインした瞬間の体感差は「昼と夜ほど」だったとも書かれています。
実験的Memoryトグルでチャットの記憶を新規セッションへ持ち越す
二つ目の鍵が、同じPersonalizationメニュー配下にある実験的な Memory トグルです。これをオンにすると、Codexはあらゆるやり取りを単発のトランザクションとして扱うのをやめ、チャットから新しい記憶(new memories)を生成して新規セッションに自然に持ち越すようになります。リアルタイムの調整、アーキテクチャ上の方向修正、プロジェクト固有のクセを追跡しながら、ユーザーがどのように作っているかについてのメンタルモデルを内部に構築していく挙動です。
記事内では具体例として、Parth Shah氏が高級ジュエリーECサイトのフロントエンドでダイヤモンドネックレスの商品カードを作っていた場面が紹介されています。Codexは当初、汎用的な青いボタンと角張ったコーナーを使ったデザインを出力したものの、これでは高級ブランドの雰囲気が崩れてしまったといいます。そこで同氏はチャットに入って修正を指示したと述べていますが、具体的な指示内容やCodexがその後どう反応したかについての詳細は、公開された範囲では明らかにされていません。
Codexを文脈を踏まえた相棒に変える二つの設定
Parth Shah氏は、Personalization配下のCustom InstructionsとAGENTS.md、そして実験的Memoryトグルを組み合わせることで、Codexの位置付けが「単なるコード生成器」から「自分のプロジェクトの文脈を踏まえて手を動かす相棒」へと変わると整理しています。
実プロジェクトでCodexを使っていて、デフォルトの汎用性に摩擦を感じているなら、いま開いているプロジェクトでPersonalizationにアクセスし、まずCustom Instructionsへ自分のスタックと禁止事項を書き出すこと、その上でAGENTS.mdをリポジトリのルートにコミットし、実験的Memoryトグルをオンにしてみることが現実的な第一歩になります。継続して使うかどうかは、自分のスタックや好みがどれだけ「再入力したくない情報」になっているか次第と言えるでしょう。
AGENTS.mdを支える業界標準としての地殻変動
リポジトリ直下に置くだけで効くシンプルさは、背後にある業界横断の合意形成に支えられています。Linux Foundationは2025年12月9日にAgentic AI Foundation(AAIF)の設立を発表し、AnthropicのModel Context Protocol、Blockのgoose、そしてOpenAIのAGENTS.mdをアンカープロジェクトとして迎え入れました。
主要メンバーと採用状況
- プラチナメンバー: AWS、Anthropic、Block、Bloomberg、Cloudflare、Google、Microsoft、OpenAI
- 採用ツール: Cursor、Devin、Factory、Gemini CLI、GitHub Copilot、Jules、VS Code、Amp
- 採用規模: 60,000を超えるオープンソースプロジェクトで利用されています
特定ベンダーから切り離された中立的なフォーマットとして位置付けられているため、エディタやエージェントを乗り換えてもAGENTS.mdの記述は再利用しやすい構造になっています。
Memory機能の正式ロールアウト状況
実験的トグルとして案内されているMemoryは、2026年4月のCodex大型アップデート以降、段階的にプレビュー提供が拡大しています。OpenAIは4月16日付でcomputer use、画像生成、Memory、そして90を超えるプラグインを束ねた更新を投入しました。
| 時期 | 対象 | 内容 |
|---|---|---|
| 2026年4月16日 | 全プラン横断 | Memoryを含む大型アップデート発表 |
| 2026年4月20日 | EnterpriseとEdu | Memoryプレビュー先行ロールアウト |
| 同時期以降 | PlusとPro | 数週間以内に順次提供予定 |
| 2026年5月 | 既存ユーザー | Memoryサマリーがバージョン管理対象に |
EUと英国向けには別のタイムラインが設定されており、規制対応の事情から地域ごとに提供順序が分かれている点に留意が必要です。
Q&A
Q. Custom InstructionsとAGENTS.mdは何が違いますか? Custom InstructionsはCodexのPersonalization設定に書き込むプロファイルで、実行するあらゆるプロンプトに静かに注入される仕組みと説明されています。一方のAGENTS.mdはリポジトリのルートに置くファイルで、AIエージェント向けの特化型READMEとして機能し、構造ルールをコードベース側にハードコードする規約とされています。両者の詳細な使い分けや併用パターンについては出典元を参照してください。
Q. 実験的Memoryをオンにすると何が起きますか? Memoryをオンにすると、Codexはチャットでの調整や方向修正から新しい記憶を生成し、新規セッションへシームレスに引き継ぐとされています。リアルタイムの調整・アーキテクチャ上の修正・プロジェクト固有のクセを追跡し、ユーザーの作業モデルを内部に蓄積していく挙動です。トグルは Settings → Personalization メニュー配下にあります。
出典
- XDA Developers — Codex is powerful but this one setting made it far more useful for real-world projects
- Linux Foundation — Linux Foundation Announces the Formation of the Agentic AI Foundation (AAIF)
- Build Fast with AI — OpenAI Codex 2026: Computer Use, Memory & Full Review