AIエージェントを「従業員」として管理するための基盤を構築するサイバーセキュリティスタートアップ・NewCoreが、6,600万ドルのシードラウンドを完了し、ステルスモードから正式に姿を現しました。評価額は出資後ベースで3億ドルに達しています。
ゴールドマン・マッキンゼーが先行——AIエージェントは「職場の一員」になりつつある
企業がAIエージェントを単なるソフトウェアツールではなく、職場の参加者として扱う事例は着実に増えている。Goldman Sachsは昨年、AIコーディングエージェント「Devin」を新入社員として試験的に採用したと報じられている。McKinseyは今年、60,000人の従業員と並走する形で25,000体のAIエージェントがすでに稼働していると述べている。
NewCoreの共同創業者でCEOのZohar Alon氏は、こうした動きに対して既存のアイデンティット基盤が根本的に不適合であると主張する。「AIエージェントがもたらすスケールと複雑性は、15〜20年前に設計されたアイデンティットプラットフォームを確実に破綻させる」とTechCrunchに語っている。
Alon氏はクラウドセキュリティスタートアップDome9を創業し、Check Pointに売却した実績を持つ。NewCoreへの着想は2023年、ある企業のテクノロジー予算を精査した際に生まれたという。既存のアイデンティットプロバイダーへの高額な請求書を見てAlon氏が「相当に満足しているはずだ」と言うと、担当者から「いや、そうではない」と返ってきた。Alon氏はこの一言を、アイデンティット市場が大規模ながら競争圧力の乏しい停滞市場であることの証左と受け止めた。
NewCoreの技術——スプリットキー、Agentic Skill、モバイルアプリ
NewCoreのプラットフォームは、人間とAIエージェントの双方のアイデンティティを単一システムで統合管理する設計だ。同社が強調するのは、AIエージェントを従来のサービスアカウントやマシン証明書として扱うのではなく、独自の権限・ライフサイクル制御・失効機構を持つ「ファーストクラスのアイデンティティ」として扱うという思想である。
技術的な特徴として3点が挙げられる。
- スプリットキー・アーキテクチャ:重要な認証情報を顧客側とプラットフォーム側に分割して保持することで、単一障害点による侵害リスクを排除する設計
- Agentic Skillインテグレーション:AnthropicのClaude Code、OpenAIのCodex、Cursorなどのコーディングアシスタントを対象とした統合パッケージで、これらのAIツールが手動配布の認証情報ではなく、管理されたアイデンティティとして企業システムへアクセスできるようにする
- モバイルアプリ:従業員がスマートフォンからAIエージェントのアクセス付与・確認・失効を行えるインターフェース。大規模な自律システム展開における人間の監視レイヤーと位置づけられている
OktaやMicrosoft Entraとの根本的な差異
既存のアイデンティットプロバイダーであるOktaおよびMicrosoftのEntraもAIエージェント向けの機能追加を進めている。しかしAlon氏はこれらのアプローチを「従来のベンダーはアイデンティットのエージェント対応手段を提供しているが、それは付け足しであり、統合されていない」と評している。
NewCoreは人間・機械・AIエージェントが混在するワークフォースをゼロから前提に設計されており、これが既存プラットフォームとの本質的な違いだとAlon氏は主張する。
50人体制・顧客10社未満で今夏から課金へ
シードラウンドはサイバーセキュリティ特化のベンチャーファーム・Cyberstartsが主導し、Index VenturesとEvolution Equity Partnersが参加した。
NewCoreは現在、米国とイスラエルに50人以上の従業員を擁する。顧客数は10社未満、デザインパートナーは10社超とまだ初期段階にある。Alon氏によれば、今夏から顧客への課金を開始する予定だという。
CTO兼共同創業者のAmihai Neiderman氏はイスラエル国防軍の精鋭情報部隊「8200部隊」の元研究リーダーでヘルスケアAIスタートアップNym Healthの創業者、CCO兼共同創業者のErez Yarkoni氏は元T-Mobile USAおよびTelstraのCIOを歴任している。
Alon氏はAIエージェントが数年以内に多くのテクノロジー企業で人間の従業員数を上回る可能性があると予測している。「(AIエージェントが労働力の重要な一部になることは)必然だ。問題は、私たちが間に合うようにガードレールを構築できるかどうかだ」と同氏は語っている。
現時点で顧客基盤はまだ限定的であり、今夏以降の本格展開と課金開始がNewCoreの本番テストとなる。続報を待ちながら、AIエージェントのアイデンティット管理という市場がいつ本格的に立ち上がるかを見極めるのが妥当な判断だ。
<!-- ENRICH:START -->競合各社の動向——Okta・Microsoft・CrowdStrikeが揃って参入
AIエージェント向けアイデンティティ市場には主要セキュリティベンダーが相次いで参入しています。
- Okta:「Okta for AI Agents」を早期アクセスで提供中で、一般提供は2026年4月30日に予定されています。エージェントをサービスアカウントの延長ではなく、ファーストクラスのアイデンティティとして扱う初の本格的な試みと位置づけられています
- Microsoft Entra:ユーザーとAIエージェントのセキュリティを統合する「access fabric」構想を推進していますが、自社エコシステムに最適化されており、Vertex AIやAWS Bedrockを併用するマルチクラウド企業にとっては制約が大きいと評価されています
- CrowdStrike・Palo Alto Networks:いずれも独自アプローチでAIエージェント保護機能を展開中で、レイヤー横断の競争が激化しています
NewCoreが標榜する「ゼロから設計された統合プラットフォーム」という訴求は、Oktaの一般提供時期や大手の機能拡張ペースとの競合関係において試されることになります。
市場背景——アイデンティティ侵害と非人間IDの統治ギャップ
NewCoreが立ち上がる土壌として、企業のアイデンティティ被害は深刻なレベルに達しています。Sophosの「State of Identity Security 2026」では、71%の組織が過去12ヶ月以内に少なくとも1回のアイデンティティ侵害を経験したと報告されています。
| 指標 | 数値 | 出典 |
|---|---|---|
| AIエージェント関連インシデント経験率 | 88% | Security Boulevard 2026 |
| 12ヶ月以内に重大インシデントを予想する企業 | 97% | 同上 |
| 未文書化または数ヶ月未使用のマシンアイデンティティ | 70% | NHI Mgmt Group |
| エージェントを独立IDとして扱うチーム | 22%のみ | 同上 |
依然として大半の組織が共有APIキーに依存しており、エージェントを独立した主体として統治できているのは2割強にとどまります。NewCoreが採用するSecure Split Key(SSK)は、SAML/OIDC署名基盤の単一障害点を排除し、Golden SAMLやトークンリプレイ、ベンダーサプライチェーン経由の侵害を封じる狙いで設計されています。TPMやSecure Enclaveにアンカーされた「VisualMFA」も合わせて提供されています。
<!-- ENRICH:END -->Q&A
Q. NewCoreはどのようなAIエージェント対応ツールと連携しているか? AnthropicのClaude Code、OpenAIのCodex、Cursorの3つのコーディングアシスタントとの統合パッケージ「Agentic Skill」を提供している。これらが企業システムへ手動の認証情報を使わずにアクセスできるよう設計されている。
Q. 競合のOktaやMicrosoft Entraと何が違うのか? OktaとMicrosoft Entraも既存プラットフォームにAIエージェント対応機能を追加しているが、NewCoreはこれらを「付け足し」と位置づけ、人間・機械・AIエージェントの混在を最初から前提として設計した点が根本的な差異だとしている。ただしこの主張はNewCore側の見解である。