Samsungの労働組合が計画していた18日間のストライキに対し、韓国の裁判所が部分的な差し止め命令を発令しました。営業利益の15%、約300億ドル(約4兆5,000億円)相当のボーナス要求を巡る対立は、政府が緊急仲裁権の発動を示唆する事態にまで発展しています。すでに4〜6週間分まで枯渇していたDRAM在庫が更に逼迫する寸前で、グローバルなメモリ市場は一時的な安堵を得た形です。
裁判所が差し止め命令、違反時は1日1億ウォンの罰金
韓国の裁判所は、Samsung労組による計画ストライキに対して部分的な差し止め命令を発令しました。命令に違反した場合、組合には1日あたり1億ウォン(約66,488ドル=約997万円)の罰金が科されます。
ストライキは5月21日から6月7日までの18日間を予定していましたが、Jukan氏(@jukan05)のツイートでは、この決定により「事実上ストライキは不可能」な状況になったと伝えられています。労組側が要求していたのは、Samsungの年間営業利益の15%に相当する約300億ドル(約4兆5,000億円)のボーナスです。
政府は「緊急仲裁権」の発動を示唆
裁判所の判断と並行して、Lee Jae-myung政権の首相は政府の「Emergency Arbitration Authority(緊急仲裁権)」の発動の可能性を示唆しました。この権限はストライキ行為を最大30日間にわたって法的に停止させることが可能な、稀にしか発動されない法的措置です。
首相は労使双方に対し合意に至るよう促しており、組合側は裁判所の差し止め命令と政府の強硬姿勢という、二重の圧力に直面することになりました。
メモリ供給への影響——DRAMは3〜4%、NANDは2〜3%の混乱見通し
KB Securitiesの試算では、Samsungの組合員のうち30〜40%がストライキに参加した場合、グローバル供給への混乱はDRAMで3〜4%、NANDで2〜3%に達する可能性があると報じられています。
| 項目 | 現状・予測値 |
|---|---|
| 世界のDRAM在庫 | 4〜6週間分(既に逼迫水準) |
| ストライキ参加率の想定 | 組合員の30〜40% |
| 供給混乱の予測(DRAM) | 3〜4% |
| 供給混乱の予測(NAND) | 2〜3% |
| DDR4 8GBモジュール価格上昇 | 深圳華強北で約20%(ストライキ警戒で先行上昇) |
世界最大の電子部品市場である深圳華強北では、すでに8GB DDR4モジュールの価格が約20%上昇していました。これはストライキ実施を見越した先行的な動きで、Samsungと労組の交渉決裂が報じられた直後から顕在化していたものです。
なおSamsungのHBM4は11.7Gbpsのスループットを実現する能力があるとされています。1Q26にはSamsungとSK hynixの両社が公式決算で価格上昇トレンドを示しており、TrendForceもメモリ価格の急騰を指摘していました。
交渉責任者を交代、5月18日に対話再開
二重の圧力を受け、Samsung労組は経営側との交渉を再開しました。Samsung側も柔軟性を示し、交渉責任者をVPのKim Hyung-ro氏から、DS(半導体)部門People TeamのYeo Myung-koo氏へ交代させています。
労組は以前から「半導体への理解不足」を理由にこの交代を要求していました。5月18日からの交渉再開で局面が大きく変わったかたちです。
現時点での判断——メモリ調達担当者は一時的安堵、ただし監視継続が妥当
裁判所命令、政府の緊急仲裁示唆、交渉責任者の交代という3つの要素が短期間に重なったことで、調整されたストライキ行動による脅威は実質的に大幅に低下したと伝えられています。グローバルなメモリ市場は、ひとまず安堵のため息をつける状況です。
ただしDRAM在庫が4〜6週間分しかない構造的逼迫は変わらず、深圳華強北の価格上昇も継続しています。メモリ調達を担うサーバー・PC・スマートフォン関連企業にとっては、現時点では「最悪のシナリオ回避」と判断するのが妥当で、価格動向と交渉の続報を注視しましょう。
ストライキ回避の裏で進むSamsungのHBM4量産——Rubin世代AI需要を捕捉
ストライキが回避されたことで、Samsungが控えていた次世代メモリの量産計画にも追い風が吹いています。Samsungは業界初となる商用HBM4の量産を開始し、顧客への出荷を始めたと発表しました。量産は2026年2月にPyeongtaekキャンパスで開始され、ライバルのSK hynixもほぼ同時期に独自のHBM4量産に入る予定です。
スペックと顧客動向
- HBM4は11.7Gbpsの処理速度を実現し、1スタックあたり最大3.3TB/sの帯域幅に達しています
- 12層スタックで24〜36GB、16層スタックで48GB対応の構成が用意されています
- NVIDIAはVera Rubin向けにHBM4を採用し、AMDはInstinct MI430Xに432GB HBM4をリストしています
- Samsungは2026年のHBM売上が2025年比で3倍超になると見込んでいます
ストライキ実施は、まさにこの量産立ち上げ時期と重なるリスクを孕んでいたため、回避の意義は単なる短期供給維持にとどまらず、AIアクセラレータ需要の取り込みという構造的な機会の確保にも直結していました。
メモリ価格は2026年通年で構造的高騰へ——TrendForceが予測を相次ぎ上方修正
ストライキ要因が後退した一方で、2026年のメモリ価格は需給構造そのものが上昇圧力を生んでいます。TrendForceは1Q26の従来型DRAM契約価格を+90〜95%、NAND Flashを+55〜60%へと大幅に上方修正しました。さらに2Q26には従来型DRAM契約価格が+58〜63% QoQ、NAND Flashが+70〜75% QoQ上昇すると予測されています。
| 期間 | DRAM契約価格(QoQ) | NAND Flash契約価格(QoQ) |
|---|---|---|
| 1Q26(上方修正後) | +90〜95% | +55〜60% |
| 2Q26(予測) | +58〜63% | +70〜75% |
クラウドサービスプロバイダーが長期契約で供給の大部分を確保しており、意味ある能力拡張は2027年後半から2028年まで期待できない情勢です。最も影響を受けるのは低価格帯スマートフォン市場で、ベースモデルは2026年に4GBへ戻る見込みとなっています。ストライキ回避は短期的な追加ショックを防いだものの、構造的な逼迫は長期化が確実な状況です。
Q&A
Q. 結局Samsungのストライキは実施されないのですか? 韓国の裁判所が部分的な差し止め命令を発令し、違反時は1日1億ウォン(約997万円)の罰金が科されることから、事実上ストライキは困難な状況です。政府も最大30日間ストライキを停止できる緊急仲裁権の発動を示唆しており、組合側は5月18日から交渉を再開しています。
Q. もしストライキが実施されていた場合、DRAM・NAND価格はどうなっていたのですか? KB Securitiesの試算では、組合員の30〜40%が参加した場合に供給混乱はDRAMで3〜4%、NANDで2〜3%に達する可能性があるとされています。世界の在庫が4〜6週間分まで枯渇している状況での追加供給ショックとなるため、価格への上昇圧力は大きいと見られていました。
Q. 労組はなぜ約300億ドルものボーナスを要求しているのですか? 労組はSamsungの年間営業利益の15%に相当する額をボーナスとして要求しており、その金額が約300億ドル(約4兆5,000億円)に達します。労使交渉は決裂状態にあり、組合側は18日間のストライキ計画を背景に強硬な姿勢を取っていましたが、裁判所の差し止め命令と政府の緊急仲裁示唆を受けて再び対話のテーブルに戻っています。
出典
- Wccftech — A Court Has Just Crushed Samsung Union Workers’ Dream Of Winning $30 Billion In Bonuses, As South Korea’s Government Threatens To Go Full Scorched-Earth Against A Planned Strike
- Samsung Global Newsroom — Samsung Ships Industry-First Commercial HBM4 With Ultimate Performance for AI Computing
- SamMobile — Samsung could start HBM4 AI memory chip mass production in February 2026