AnthropicがロンドンのチップスタートアップFractileとの間で、AI推論アクセラレーターの購入に向けた初期交渉を行っていると報じられています。Tom's Hardwareが伝えたもので、情報源はThe Informationの報道です。実現すれば、AnthropicにとってNvidia・Google・Amazonに続く4社目のチップ供給元となる可能性があります。
DRAMを使わない「SRAM統合型」チップとは何か
Fractileは2022年にOxford大学博士のWalter Goodwin氏が設立したスタートアップです。同社が開発中の推論チップの最大の特徴は、演算を行うトランジスタのすぐ隣にデータを格納するSRAMを配置し、外付けのDRAMチップへのデータ転送を不要にするアーキテクチャにあります。
現在のGPUベースのAI推論では、モデルの重みデータをGPUと外付けDRAMの間で頻繁にやり取りする必要があり、これが処理速度とコストの大きなボトルネックになっています。Fractileのアプローチはこの問題を大幅に削減できる可能性があります。
Goodwin氏は2024年7月のFortune誌取材で、シミュレーション上ではNvidiaのGPUと比較して大規模言語モデルを100倍高速かつ10倍安価に実行できる可能性があると述べています。ただし、同時点ではテストチップの製造はまだ行われていませんでした。現在も商業化は2027年頃になる見込みとされており、Anthropicの近期調達計画の範囲外に位置する段階です。
Fractileの資金調達状況と注目度の高まり
Fractileはこれまでに、Kindred Capital・NATO Innovation Fund・Oxford Science Enterprisesが共同主導するシードラウンドで1,500万ドルを調達しています。現在はFounders Fund・8VC・Accelなどを潜在的な投資家として、2億ドルの調達を10億ドル超のバリュエーションで交渉中と報じられています。
チームにはGraphcore・Nvidia・Imagination Technologiesの出身エンジニアが含まれているとされており、ハードウェアと並行して独自のソフトウェアスタックも開発中とのことです。
Anthropicが「チップ分散調達」を加速させる背景
Anthropicは意図的に特定のチップベンダーへの依存を避ける戦略を取っています。現在はNvidiaのGPU、AmazonのTrainium(Project Rainier)、そしてGoogleのTPUを並行して利用しています。GoogleとのTPU契約はOctoberに発表され、当初は1GW超のコンピュート容量を確保。4月初旬にはBroadcom経由で2027〜2031年にかけて3.5GWのTPU容量に拡大することが明らかになっています。
この分散調達戦略の背景には、急拡大する推論コストの問題があります。Anthropicの年換算収益ランレートは2025年末時点の約90億ドルから、2026年3月には300億ドルを突破しましたが、推論コストが粗利率を圧迫しているとされています。OpenAIやxAIが自社データセンターの建設・拡張を進めているのとは対照的に、Anthropicは複数プロバイダーからの容量賃借と調達先の多様化によるコスト交渉力の確保を選んでいます。
Fractileと同様にSRAMベースや近接メモリアーキテクチャを追求する推論特化スタートアップとしては、GroqやCerebrasも存在します。NvidiaはGroqを200億ドルで買収する合意をDecemberに締結し、その後独自の推論アクセラレーター「Groq 3 LPX」を発表しています。Tom's Hardwareは、これはトークンあたりコストの最適化に対する商業的な圧力が業界全体で高まっていることを示していると報じています。
現時点ではAnthropicとFractileの交渉は初期段階であり、Fractileの商業化自体も2027年頃と見込まれているため、実際の導入が実現するかどうかは不透明です。続報を待ちながら、SRAM統合型チップがAI推論コストの構造をどう変えるかに注目するのが妥当な段階です。
Q&A
Q. FractileのチップはNvidiaのGPUより本当に優れているのですか? 2024年7月時点のシミュレーション上では、大規模言語モデルの実行速度が100倍高速・コストが10倍安価になる可能性があるとGoodwin氏は述べています。ただし、当時はまだテストチップの製造も行われておらず、実機での検証結果ではありません。商業化は2027年頃の見込みです。
Q. AnthropicはなぜFractileのような小規模スタートアップと交渉するのですか? Anthropicは特定ベンダーへの依存を避ける分散調達戦略を採っており、推論コストの削減が急務となっています。SRAM統合型アーキテクチャはDRAMボトルネックを大幅に削減できる可能性があります。ただし、Anthropicが公式にその意図を表明しているわけではありません。
Q. Fractileへの投資交渉に参加しているとされる企業はどこですか? Founders Fund・8VC・Accelが潜在的な投資家として名前が挙がっています。調達額は2億ドル、バリュエーションは10億ドル超での交渉中と報じられていますが、いずれも確定した情報ではありません。