22年の歴史を持つWindowsテキストエディタ「Notepad++」の作者Don Ho氏が、macOS向けポートの開発者に対してCloudflareへの商標申し立てを行い、さらなる法的措置も辞さない姿勢を示しています。争点はソフトウェアのコード自体ではなく、名称・ロゴ・著者情報の無断使用です。
macOSポートが「公式リリース」として広まった経緯
macOS向けポートを開発したのは、ニューヨーク在住の開発者Andrey Letov氏です。AIを活用した開発ワークフローを用いて制作されたこのポートは、2026年4月に最初の公開バージョンをリリースしました。
問題は、そのプレゼンテーション方法にありました。プロジェクトのウェブサイトはNotepad++のカメレオンロゴを使用し、ドメイン名も本家と酷似したものを採用。さらに著者ページにはHo氏の経歴がHo氏の知識も同意もないまま掲載され、Letov氏と並んで紹介されていました。独立したポートである旨の免責事項は記載されていたものの、マーケティングコピーをスクロールしなければ見つけられない位置に置かれていました。
この結果、複数のテックメディアが当初このポートを「待望の公式クロスプラットフォーム展開」として報道。Ho氏が5月1日にブログ投稿でこのプロジェクトを「偽物」と呼び実態を訴えた後、各媒体は記事を修正しています。
Ho氏の主張——コードではなくブランドが問題
Ho氏が強調しているのは、macOSポートの存在そのものへの反対ではありません。Ho氏はmacOSポートが存在することを歓迎しているとも述べています。
Notepad++はGPL v3ライセンスのもとで公開されており、誰でもソースコードをフォークして改変することが認められています。しかし、プロジェクトの名称とロゴは商標登録されており、Ho氏はその使用を許可していません。
GitHubのスレッドでHo氏は、「Notepad++チームがNotepad++のコードベースに基づくと主張するプロジェクトを公式に支持しているように見えることは、チームにとってリスクがある」と述べています。他のコントリビューターからも、こうした状況がユーザーをマルウェアにさらす可能性があり、ポートでセキュリティ問題が発生した場合にオリジナルプロジェクトの評判を傷つけるという懸念が示されています。
サプライチェーン攻撃が背景に
Ho氏がブランド保護に神経をとがらせる背景には、過去に発覚したセキュリティインシデントがあります。ソース記事によれば、Notepad++はかつて自身のアップデートサーバーが乗っ取られたと発表しており、中国のスパイグループ「Lotus Blossom」との関連が指摘されています。この攻撃では、エディタ内蔵のアップデート機能を通じて一部のユーザーにトロイの木馬が仕込まれたインストーラーが約7ヶ月にわたって配布されていました。
Ho氏はその後、アップデート検証の強化に取り組んできました。同じブランドを名乗る無許可のフォークが存在することは、その努力を複雑にし、ユーザーが正規ソフトウェアと模倣品を見分けることをより困難にします。
交渉決裂——現在も旧ドメインでサイトが稼働中
The Registerの報道によれば、Letov氏は当初Ho氏にポートを公式承認してほしいと希望を示しましたが、Ho氏は「自分が管理していないソフトウェアに名前を載せることはしない」として拒否しています。
その後Letov氏はウェブサイトに「Don Ho氏との調整のもとでリブランディングを行う」というバナーを追加しましたが、Ho氏はThe Registerに対してそのような調整は存在しないと否定し、サイトの即時削除を求めたと伝えられています。Letov氏は新ブランドと新ドメインへの移行に2週間程度の猶予を求めましたが、Ho氏は商標侵害のリスクが継続するとしてこのスケジュールを拒否しています。
記事執筆時点では、macOSポートのウェブサイトは同じドメインのまま稼働しており、名称は「Nextpad++ for Mac」、独自のカエルのスプライトロゴに変更された状態となっています。