AI半導体の需要急増で先端パッケージング工程の供給逼迫が長期化するなか、メモリ最大手のSK hynixがIntelの「EMIB(Embedded Multi-die Interconnect Bridge)」技術の評価を進めていると報じられました。注目は、EMIB-Tで報じられている「90%歩留まり」という数字の裏側です。TSMCのCoWoSがボトルネック化するなか、代替肢としてIntelのパッケージング技術が存在感を強めつつありますが、量産化に向けては別の壁も指摘されています。
CoWoSの逼迫はAIサーバー・アクセラレータの供給量と価格、ひいては最終的なAI製品の性能・コストにまで波及する論点であり、EMIB台頭の動向はテック層以外にとっても無視できないテーマと言えます。
TSMC CoWoSの逼迫が背景、SK hynixがIntelと2.5Dで連携
Wccftechによれば、SK hynixはIntelと2.5DパッケージングおよびEMIBに関する共同研究を進めており、韓国メディアZdnet Koreaの報道が引用されています。AI向けチップ需要の急増で先端パッケージング能力は2022年後半から逼迫が続いており、IC設計各社はTSMC一極依存からの分散先を探っています。
EMIBは、メインのチップダイとパッケージ基板の間にインターポーザを介して接続する2.5Dパッケージングの一形態として活用が想定されています。SK hynixはこの技術を、自社のHBM(高帯域メモリ)とロジックダイを接続する用途で評価しており、量産時に用いる原材料の検討にも入っているとされます。
Googleも関心、AIパッケージング供給網のキープレイヤーになるか
Intelの製造・パッケージング事業は、CEOのLip-Bu Tan氏の下で巻き返しを進めている最中です。直近の決算説明会でTan氏は、自社のビジネスモデルについて次のように述べました。
「We're not just at the CPU. We have advanced packaging and foundry, we can really effectively driving some of the changes more quickly to serve the customer in terms of their different workloads(我々はCPUだけではない。先端パッケージングとファウンドリを持ち、顧客の異なるワークロードに応じた変更をより速く反映できる)」
EMIBへの関心はSK hynixだけにとどまりません。Wccftechの同記事内では、TSMCのCoWoS供給制約を受けてGoogleがIntelのEMIBに関心を示しているとの直近の報道にも触れられています。IntelのEMIB積極展開と市場の需給動向が重なれば、AIパッケージングの供給網でEMIBが重要な位置を占める可能性があると、関係筋の見方として紹介されています。
鍵を握るのは「量産歩留まり」——Kuo氏の指摘
ただし、EMIBが本格的にAIサプライチェーンに組み込まれるかどうかは、量産段階の歩留まりにかかっています。著名アナリストのMing-Chi Kuo氏は、IntelのEMIB-Tで報じられている90%という歩留まりについて、これは検証(バリデーション)段階の数値であって量産歩留まりを示すものではないと指摘しました。Googleが次世代TPUにEMIBを採用するか否かの判断でも、この量産歩留まりが鍵を握るというのがKuo氏の見方です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 報道された歩留まり | EMIB-Tで90% |
| Kuo氏の見方 | バリデーション段階の数値であり、量産歩留まりとは異なる |
| 影響範囲 | Googleの次世代TPUでのEMIB採用判断に直結 |
つまり、CoWoSが逼迫しているからといって、すぐにEMIBが量産アロケーションを大規模に取れるとは限らない——というのが現時点での冷静な見方です。SK hynixがHBM接続にEMIBを使うか否かも、量産時の歩留まり水準次第になりそうです。
CoWoS一強に揺らぎ、しかし量産の壁
AI半導体の供給制約が依然として続くなか、メモリ大手のSK hynixがIntelのEMIB評価に踏み込んだという報道は、TSMC CoWoSへの一極依存に対する分散の動きとして注目されます。GoogleのTPUを巡る関心もあわせて、EMIBが2.5Dパッケージングの有力な選択肢として浮上していることは間違いありません。
一方で、Kuo氏が釘を刺したように、検証段階の歩留まりと量産歩留まりはイコールではありません。本格採用への道筋はまだ確定しておらず、現時点ではAIパッケージング供給網の構造変化の「兆し」として捉え、Intelファウンドリ事業の今後の発表と各社の採用判断を見極めるのが妥当でしょう。
EMIB供給網の急拡大——Amkor外注からマレーシア新拠点まで
Intelは2.5DパッケージングのキャパシティをIDM内に閉じず、外部委託と海外拠点で同時に拡張しています。Intelは初めてEMIB生産をAmkorのSongdo K5施設(韓国)に外注しており、加えてポルトガルとアリゾナにも追加拠点を計画しています。地理的分散の中心となるのが東南アジアで、マレーシア・ペナンの先端パッケージング複合施設は99%完成しており、2026年内に第一段階の組立・テスト運用が開始される予定です。
顧客取り込みと収益見通しの上方修正
商業化の進捗も具体化しつつあります。IntelのDavid Zinsner CFOは、パッケージング事業の売上見通しを以前の「数億ドル」から10億ドル超に引き上げ、EMIBおよびEMIB-Tの顧客は早ければ2026年下半期に立ち上がり、数十億ドル規模の売上をもたらす可能性があると述べました。技術仕様面では、EMIB-TはHBM3、HBM3E、HBM4、将来のHBM5スタックに対応し、120×180mmパッケージで38超のブリッジと12レチクルサイズ超のダイへスケールします。
CoWoSのキャパ拡大と価格差——「分散」の経済合理性
EMIBが浮上する背景には、CoWoSの絶対量不足だけでなく価格構造の問題もあります。TSMCはCoWoS容量を2024年末の約3.5万枚/月から2025年末の約8万枚、2026年末には約13万枚へと引き上げる計画です。それでも需要は追いつかず、Morgan Stanleyの予測ではNVIDIAの2026年CoWoSウェハ需要は59.5万枚に達し、世界総需要の60%を占めるとされています。
| 指標 | 数値・内容 |
|---|---|
| TSMC CoWoS容量(2024年末) | 約35,000枚/月 |
| TSMC CoWoS容量(2026年末目標) | 約130,000枚/月 |
| NVIDIA 2026年CoWoS需要シェア | 約60%(59.5万枚) |
| EMIBチップ単価(Bernstein推計) | 数百ドル台 |
| Rubin級CoWoS単価(Bernstein推計) | 900〜1,000ドル |
価格差も無視できません。Bernsteinの推計では、EMIBは数百ドル台、Rubin級アクセラレータのCoWoSは900〜1,000ドルとされています。TrendForceによればCoWoS-L/Sはともに満杯予約状態で、Googleは割当制限により2026年のTPU目標を100万ユニット下方修正したと報じられています。
Q&A
Q. EMIBとCoWoSの技術的な違いは何ですか? 両者はいずれも複数のダイを1パッケージに統合する2.5Dパッケージング技術ですが、EMIBはダイ間を局所的に橋渡しする小さなシリコンブリッジを基板に埋め込む方式で、CoWoSは大きなシリコンインターポーザ上にチップを載せる方式とされています。Wccftechの記事ではEMIBが「インターポーザを使ってメインダイとパッケージ基板を接続する2.5D実装の一形態」として位置づけられており、CoWoS逼迫時の代替肢として注目されています。
Q. EMIBはCoWoSを完全に置き換える存在になりますか? 現時点では断定できません。SK hynixやGoogleが評価しているとは報じられているものの、量産歩留まりの実力が判断の鍵を握るとMing-Chi Kuo氏は指摘しています。本格採用の可否は今後の検証次第です。