引退したWear OSウォッチが、走行中のギアを表示するシフトノブに化けました。 あるDIYおよび3Dプリント愛好家が、使わなくなったTicWatch Pro 3のディスプレイと基板を3Dプリント製のシフトノブ筐体に組み込み、現在のギアをリアルタイム表示するカスタムパーツを自作したと、Android Authorityが伝えています。古いWear OSウォッチの「眠らせない使い道」を考えるうえで、参考になる事例です。
なぜ加速度センサーだけでギアが分かるのか?
このプロジェクトの中心にあるのは、Wear OSウォッチであるTicWatch Pro 3のディスプレイとマザーボードです。製作者はそれを取り出し、自作した3Dプリント製のシフトノブ筐体に組み込みました。見た目はシフトノブそのものですが、上面の円形ディスプレイには現在入っているギアの数字が映し出されます。
ギアの判定は、車両側のセンサーから取得しているわけではありません。ウォッチに内蔵されている加速度センサーとジャイロセンサーの値を読み取り、シフトノブの傾き(=シフトレバーの倒し方)から現在のギアを推定する、というアプローチを取っています。スマートウォッチが本来は腕の動きを検出するために積んでいるセンサー群を、そのままシフトノブの姿勢検出に転用した格好です。
「vibe coding」で本当に動くWear OSアプリが作れるのか?
ギア判定のアルゴリズムを動かすWear OSアプリは、製作者が自ら「vibe coding」で書き上げたとされています。生成AIに対話的にコードを書かせるvibe codingは近年DIY系のプロジェクトで広がっており、本格的なアプリ開発の経験がなくてもWear OS上で動くカスタムアプリを実装できるところまで来ていることが、この事例からもうかがえます。
ただし、現状の仕組みには限界もありました。製作者自身がコミュニティ上の議論で認めている通り、坂道を走行している際にギアの判定が誤って表示されることがよくあったといいます。その後、アルゴリズムをファインチューニングすることで、この問題は修正できたとのことです。
v2の計画——SLS素材と第2センサーの追加を検討
製作者は、すでに次期版(v2)に向けた構想も語っています。コミュニティの返信で寄せられた提案を取り入れる形で、
- 筐体の素材をSLS方式で出力したより強度の高いものに変更する案
- 車側にもう一つのセンサーを追加し、それを基準点として角度を計算し、坂道でも正しいギアを表示できるようにする案
の2点を検討中とされています。いずれも現時点では計画段階です。
ギア表示だけではない——Spotifyコントローラーも兼ねる
「そもそも走行中にシフトノブを見るのか?」というツッコミは多くの読者が抱くはずですが、製作者もそこは織り込み済みです。このシフトノブにはメディアコントローラーとしての機能も持たせてあり、スワイプ操作でSpotifyの曲送りや一時停止が行える、と紹介されています。常時ギアを凝視する装置というよりは、運転中の手元操作を1か所に集約するための「賢い握り」として位置づけられているわけです。
スマートウォッチをそのまま手首に巻くのではなく、ディスプレイと基板だけを抜き出して別の用途に再構築する——3Dプリンタとvibe codingを組み合わせれば、個人レベルでもここまで作り込めるようになってきました。実用性よりも「やってみた」の側面が強いプロジェクトではあるものの、引退したWear OSウォッチに新しい役割を与えるアイデアとして見れば、十分に刺激的な試みでしょう。
引き出しの奥に眠っている古いWear OSウォッチがあるなら、捨てる前にこうした転用先を考えてみる価値はあるかもしれません。少なくとも、ディスプレイと加速度センサー、ジャイロセンサーが揃ったコンパクトな計算機としては、なかなか手強い「廃材」です。
TicWatch Pro 3が「再利用素材」になった背景——Mobvoiのアップデート事情
転用素材としてTicWatch Pro 3が選ばれた背景には、Mobvoiのソフトウェア更新の遅さも無関係ではありません。Wear OS 3はTicWatch Pro 3と各バリエーション、TicWatch E3向けにようやく2023年12月から配信が始まりましたが、その時点でSamsungとGoogleのWear OS時計はすでにWear OS 4に移行済みで、Mobvoiは「Wear OS 4について共有できるニュースはない」と回答していました。
さらに移行には大きな代償もあります。
Wear OS 3にアップグレードした後、これらのMobvoiスマートウォッチはAndroid上のWear OSアプリでは動作しなくなります。
加えて対象機はQualcomm Snapdragon Wear 4100プラットフォームとMobvoi独自のコプロセッサーで動作しています。長期サポートの先細りが見えるハードウェアだからこそ、ディスプレイと基板を物理的に抜き出して別用途へ再構成するDIYの素材として、ちょうど「踏み切れる」位置に落ちてきたとも言えます。
vibe codingが個人プロジェクトに降りてきた2026年の地図
シフトノブ用Wear OSアプリを支えたvibe codingは、2026年に入って個人開発の前提条件と呼べる段階まで普及しています。
| 指標 | 2026年時点の数値 |
|---|---|
| MIT Technology Review選出 | 「2026年の10大ブレークスルー技術」の1つ |
| 米国開発者の採用率 | 92%が何らかの形で採用 |
| AI支援コーディング市場規模 | 2026年に85億ドル見込み(2024年は数億ドル規模) |
| AI生成コードの脆弱性率 | 最大45%にセキュリティ脆弱性 |
ツール側の進化も著しく、Google AI Studioは2026年3月に、プロンプトを本番想定のアプリへ変える刷新版のvibe coding体験を発表し、マルチプレイヤー機能や外部ライブラリのインストールまでをUIから離れずに組み立てられるようにしました。腕時計の傾きから現在のギアを推定するような「センサー値→数字表示」程度のロジックであれば、専門教育なしでも実装まで辿り着ける土壌が整っているわけです。一方で脆弱性率の高さは、車載のような半リアルタイム用途で個人実装をそのまま走らせる際の注意点でもあります。
Q&A
Q. 改造に使われたスマートウォッチは何ですか? Wear OS搭載のTicWatch Pro 3です。ディスプレイとマザーボードを取り出し、3Dプリント製のシフトノブ筐体に組み込んでいます。
Q. ギアの判定はどうやって行っているのですか? 車両側のセンサーではなく、ウォッチ内蔵の加速度センサーとジャイロセンサーで筐体の傾きを検出し、そこからギアを推定する方式です。坂道で誤判定する課題があったものの、アルゴリズムのファインチューニングで修正されたとされています。
Q. なぜ走行中にシフトノブを見る必要があるのですか? ギア表示自体は常時凝視するためのものではなく、シフトノブ上のディスプレイで現在のギアを「確認できる」位置に置く設計と読めます。あわせてスワイプによるSpotify操作(曲送り・一時停止)も載せ、手元操作の集約ハブとして使えるよう工夫されています。
Q. vibe codingで作ったアプリの精度は実用レベルなのですか? 製作者によると、初期版では坂道走行時の誤判定が頻発したものの、アルゴリズムをファインチューニングすることで改善できたといいます。現時点では「個人プロジェクトとして動く」段階であり、量産品レベルの精度が保証されたものではない点には留意が必要です。